詩歌紹介

吟者:原 江龍
2018年1月掲載

読み方

  • ゆく秋の<佐々木信綱>
  • ゆく秋の 大和の国の 薬師寺の
  • 塔の上なる 一ひらの雲
  • ゆくあきの<ささきのぶつな>
  • ゆくあきの やまとのくにの やくしじの
  • とうのうえなる ひとひらのくも

語意

  • ゆく秋
    過ぎゆく秋 晩秋
  • 薬師寺
    奈良市西の京に在る 南都七大寺の一つ
  • 白鳳時代の名建築 三重の塔であるが裳階(もこし)がついて五重の塔に見える

歌意

 晩秋の奈良、薬師寺の古塔の上に、一片の雲が浮かんでいる。ああその一ひらの雲よ。

出典

 「新月」

作者略伝

佐々木信綱 1872-1963

 明治5年ー昭和38年。国文学者。歌人。東京帝大卒。三重県出身。佐々木弘綱の長男。号は竹柏園。和歌の歴史的研究、万葉の基礎的研究に尽力。明治和歌革新運動を起こし竹柏会を設立。機関誌「心の花」を刊行した。著編書に「万葉集の研究」「校本万葉集」。歌集に「おもい草」「豊旗雲」がある。門下に川田順、九条武子がいる。 昭和9年(1934)学士院会員。昭和12年(1937)文化勲章を受章。年91。

備考

 一首に「の」を6回も多用しており、「やまと」「やくしじ」のヤ音の反復と相俟って、美しい声調をかもし出している。
 国→寺→塔→九輪(宝輪ともいう)と大から小へ視点が動いてゆき、晩秋の澄んだ青空にかかる一片の白雲で結んでいる。