漢詩紹介

CD①収録 吟者:吉田琥孝
2014年7月掲載

読み方

  • 白帝城<李白>
  • 朝に辞す白帝 彩雲の間
  • 千里の江陵 一日に還る
  • 両岸の猿声 啼いて住まず
  • 軽舟已に過ぐ 万重の山
  • はくていじょう<りはく>
  • あしたにじすはくてい さいうんのあいだ
  • せんりのこうりょう いちじつにかえる
  • りょうがんのえんせい ないてやまず
  • けいしゅうすでにすぐ ばんちょうのやま

詩の意味

 朝早く、美しい朝焼け雲のたなびく白帝城に別れを告げた。三峡を下り、千里も離れた江陵の地まで、たった一日で還って行く。
 両岸の猿の鳴き声が絶え間なく聞こえているうちに、軽やかな小舟は幾重にも重なった山々を通り抜けていった。

鑑賞

朝(あした)に白帝を発して暮れには江陵

 本題は「早(つと)に白帝城を発す」と言います。白帝城から江陵までは約600キロと言われています。ここは長江の中でも特に急流で有名な所であり、白帝城を早朝に船出して江陵まで下る途中、三峡を瞬くまに通過した快感を詠じたものです。「白帝」と「彩雲」が色の対照となっており、「千」と「一」の数の対照はスピード感をかもしだしています。

語句の意味

  • 白帝城
    四川省奉節県にあった古城
  • 彩 雲
    朝日に美しくいろどられた雲 朝焼け雲
  • 江 陵
    現在の湖北省江陵県 荊州ともいう

詩の形

 平起こり七言絶句の形であって、上平声十五刪(さん)韻の間、還、山の字が使われている。

結句 転句 承句 起句

作者

李 白  701-762
盛唐の詩人

 四川省の青蓮郷の人といわれるが出生には謎が多い。若いころ任侠の徒と交わったり、隠者のように山にこもったりの暮らしを送っていた。25歳ごろ故国を離れ漂泊しながら42歳で長安に赴いた。天才的詩才が玄宗皇帝にも知られ、2年間は帝の側近にあったが、豪放な性格から追放され再び各地を漂泊した。安禄山の乱では反皇帝派に立ったため囚われ流罪(るざい)となったがのち赦され、長江を下る旅の途上で亡くなったといわれている。あまりの自由奔放・変幻自在の性格や詩風のためか、世の人は李白のことを「詩仙」と称えている。酒と月をとりわけ愛し、それにまつわるエピソードが多く残っている。享年62歳。