漢詩紹介

CD2収録 吟者:熊谷峰龍
2015年1月掲載
読み方
- 山行<杜牧>
- 遠く寒山に上れば 石径斜めなり
- 白雲生ずる処 人家有り
- 車を停めて坐に愛す 楓林の晩
- 霜葉は二月の 花よりも紅なり
- さんこう<とぼく>
- とおくかんざんにのぼれば せっけいななめなり
- はくうんしょうずるところ じんかあり
- くるまをとどめてそぞろにあいす ふうりんのばん
- そうようはにがつの はなよりもくれないなり
詩の意味
遠くからやって来て、晩秋の寂しい山に登ると、小石の多い道がふもとから斜めに頂上に向かって続いている。白雲のわき起こるような高い所にも人家があるとは本当に感心したものだ。
車を停めて、なんとなく夕日に照り映えた美しい楓(かえで)の林にうっとりと見とれてしまう。霜に色づけられた楓の葉は、2月に咲く花よりもまっ赤で燃えるように美しい。
鑑賞
夕映えに照り輝く楓の美しさ
寒山・石径・白雲の字句で秋の冷ややかな感じをただよわせ、楓林・霜葉・紅・花の字句で赤々と燃えるような美を描きだして、好対照になっています。この詩の最大の妙味は霜にうたれて色づいた楓の葉を2月の花よりも赤い、といった奇想天外さにあります。「二月の花」は一般的に桃の花をさします。
語句の意味
-
- 寒 山
- 秋から冬にかけてのもの寂しい山
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- 石 径
- 石の多い小道
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- 坐
- なんとなく
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- 楓 林
- 楓の林
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- 霜 葉
- 霜にあたって紅葉した楓の葉
詩の形
仄起こり七言絶句の形であって、下平声六麻(りくま)韻の斜、家、花の字が使われている。
結句 | 転句 | 承句 | 起句 |
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作者
杜 牧 803-852
晩唐の政治家・詩人
京兆(けいちょう=今の西安)の名門の家に生まれ、若いころから詩文が得意で、23歳の時「安房宮の賦」(あぼうきゅうのふ)を作り、その天才ぶりが世に知れ渡った。26歳で進士となり、江蘇省の楊州に赴任した時代には名作を多く残している。杜牧は美男子で歌舞を好み色好みで通っていたから、艶っぽい詩が多いけれど、半面その人柄は剛直で正義感に富み、大胆に天下国家を論じたりもした。33歳の時、中央政府の役人になるが、弟が眼病を患っていたので、弟思いの杜牧は自ら報酬の高い地方官を願い出て面倒を見た話はまた別の一面を語っている。