漢詩紹介

読み方
- 春夜笛を聞く<李白>
- 誰が家の玉笛か 暗に声を飛ばす
- 散じて春風に入りて 洛城に満つ
- 此の夜曲中 折柳を聞く
- 何人か起こさざらん 故園の情を
- しゆんやふえをきく<りはく>
- たがいえのぎょくてきか あんにこえをとばす
- さんじてしゅんぷうにいりて らくじょうにみつ
- このよきょくちゅう せつりゅうをきく
- なんびとかおこさざらん こえんのじょうを
詩の意味
誰の家で吹く音色(ねいろ)のよい笛の音(ね)であろうか、どこからともなくその音が聞こえてくる。それは折からの春風に乗って、洛陽の町いっぱいに満ちわたるようである。
こんな夜、曲の中に折楊柳の曲があったが、この曲を聞けば、誰が故郷を恋い慕う思いを起こさずにはいられようか。
語句の意味
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- 玉 笛
- 笛を美しく形容したことば 音色のよい笛 「玉」は美称
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- 暗
- どこからともなく
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- 洛 城
- 洛陽の町
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- 折 柳
- 別れの際に歌われる折楊柳の曲
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- 故園情
- 故郷を思う情
鑑賞
李白を涙させる折楊柳の曲
この詩が31歳のころの作という説に従えば、作者はまだ長安に赴かない頃の作である。青年だった作者が故郷を去って後、一時は仙人のように離俗したかと思うと、広大な中国を北へ南へと何年も流浪する。そして長安で奇しくも玄宗に認められた天才詩人である。
その彼が洛陽で望郷の涙を流している。出郷の折おそらく折楊柳の曲で送り出されたのであろう。四川省の懐かしい山や川、自分のわがままで困らせた家族や友人、それらとともに粗暴であった青年時代の自分を思い出したに違いない。この曲を聴いてだれが望郷の情を起こさないものがいるだろうか、いやだれでもその情を起こす、と吐露している一瞬である。
備考
本来は「春夜洛城聞笛」(春夜洛城に笛を聞く)という題であるが、本会では簡略にした。
漢詩の小知識
「二四不同」 「二六同」について
漢詩はただ漢字を並べればよいというものではない。近体詩では平仄の並べ方に一定の決まりがある。
二四不同…二字目と四字目は異なる平仄にする。
二六同……二字目と六字目は同じ平仄にする。
この二項目は守るのが原則である。その点においてこの詩は完璧で、作詩者にとって模範的である。次の「詩の形」欄を参照されたい。
詩の形
平起こり七言絶句の形であって、下平声八庚(こう)韻の声、城、情の字が使われている。
結句 | 転句 | 承句 | 起句 |
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作者
李 白 701-762
盛唐の詩人
四川省の青蓮郷の人といわれるが出生には謎が多い。若いころ任侠の徒と交わったり、隠者のように山にこもったりの暮らしを送っていた。25歳ごろ故国を離れ漂泊しながら42歳で長安に赴いた。天才的詩才が玄宗皇帝にも知られ、2年間は帝の側近にあったが、豪放な性格から追放され再び各地を漂泊した。安禄山の乱後では反皇帝派に立ったため囚われ流罪(るざい)となったがのち赦され、長江を下る旅の途上で亡くなったといわれている。あまりの自由奔放・変幻自在の性格や詩風のためか、世の人は李白のことを「詩仙」と称えている。酒と月を愛した。享年62。