漢詩紹介

吟者:埜辺旭洲
2010年11月掲載
読み方
- 磧中の作<岑參>
- 馬を走らせて西來天に到らんと欲す
- 家を辭してより月の兩囘圓かなるを見る
- 今夜は知らず何れの處にか宿せん
- 平沙萬里人煙絶ゆ
- せきちゅうのさく<しんしん>
- うまをはしらせて せいらいてんにいたらんとほっす
- いえをじしてより つきのりょうかいまどかなるをみる
- こんやはしらず いずれのところにかしゅくせん
- へいさばんり じんえんたゆ
字解
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- 磧 中
- 沙漠の中
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- 月兩囘圓
- 満月が二回 つまり二ヶ月すぎること
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- 平沙萬里
- 平らな沙漠がはるか遠くの方までも続いていること
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- 絶人煙
- 人家の煙が絶える(広漠たる沙漠の荒涼たるさま)
意解
馬を走らせて西へ行けば沙漠は果てしなく天まで続いていて尽きることがない。もう家を出てから2回も満月の夜を迎えたのだ。
今夜はどこに野宿するのだろうか何のあてもない。見渡す限り月下に広がる沙漠は、はてしなく続いていて人家の煙さえ見えないのだ。
備考
中国西のはてに従軍して沙漠を通過した時の作という。この詩の構造は仄起こり七言絶句の形であって、拗体である、韻は下平声一先(せん)韻の天、圓、煙の字が使われている。
結句 | 転句 | 承句 | 起句 |
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作者略伝
岑 參 715-770
盛唐の詩人、南陽(河南省)の人、名門の出身で兄弟そろって秀才の誉れ高く、天宝三年(744)二番の成績で進士の試験に合格し、官を重ねて左補闕(さほけつ)、起居郎(ききょろう)となり嘉州(四川省)の刺史となり、のち職を辞して杜陵(とりょう)山中に隠棲し蜀で死す。辺塞詩人として知られている。「岑嘉州(かしゅう)集」七~八巻がある。