漢詩紹介

CD④収録 吟者:谷澤暁声
2016年3月掲載

読み方

  •  廬山の瀑布を望む <李白>
  • 日は香炉を照らして 紫煙を生ず
  • 遥かに看る瀑布の 前川に挂かるを
  • 飛流直下 三千尺
  • 疑うらくは是銀河の 九天より落つるかと
  •  ろざんのばくふをのぞむ <りはく>
  • ひはこうろをてらして しえんをしょうず
  • はるかにみるばくふの ぜんせんにかかるを
  • ひりゅうちょっか さんぜんじゃく
  • うたごオらくはこれぎんがの きゅうてんよりおつるかと

詩の意味

 日光が香炉峰を照らすと光に映えて紫の霞(かすみ)が立ち、非常に美しい。遥かに川の向こうに滝がかかっているのが見える。
 その雄大なること、三千尺もあろうかと思われる飛ぶような流れがまっすぐに落ちているのは、ちょうど天の川が天空より落ちてくるかのようである。

語句の意味

  • 瀑 布
    大きな滝
  • 廬 山
    江西省九江県の南にある名山 匤山 匤廬山(きょうろざん)ともいう 最高峰は漢陽峰の1474メートルである
  • 香 炉
    盧山の峰の一つで香炉峰 頂が香炉に似ている
  • 紫 煙
    山気(さんき)が日光に映じて紫色に霞んでみえるもの
  • 銀 河
    天の川
  • 九 天
    計り知れない高い天

鑑賞

  李白には誇張表現がよく似合う

 李白が故郷を出た翌年の26歳、江西省に遊んだころの作とする説と、安禄山の乱に巻き込まれたころの56歳説があるが後者の方が有力である。李白らしい奔放な詩である。それは「三千尺」と「九天」に顕著に表れている。滝が三千尺もあろうはずもない。三千尺とは約1000メートル。また香炉峰は1400メートルの高山ではあるが、9層に分かれているといわれる天のその最上層から落ちるというのも誇大過ぎる。しかし李白がこういう誇大表現を使うと不自然でなくなるから不思議である。むしろ眼前の光景が感動的に伝わる。
 写真で見ると何段かに折れていて、大量の水があふれ流れおちるというより岩を伝い落ちる感じだが、実際はどうなのだろう。もちろん季節によって水量も異なるであろう。布を垂らしたように一直線に落ちてきている光景を李白は見たことにしよう。水量の多い夏のころかもしれない。この詩を借用したかどうかは定かではないが、小野湖山の古詩「華厳瀑」も誇張表現があって味がある。「一落千丈又万丈 怒号地を撼かして雷霆闐たり」がそれである。山上から勢いよく音を立てて滝壺に突入するさまが手に取れるような迫力がある。いずれにしてもこういう壮大な描写は、いかにも中国的で、圧倒される。

備考

  承句には異同がある

 この詩の承句は「瀑布の長川に挂くるを」となっている解説書が多い。「瀑布は長い川を立て掛けたように流れ落ちる」と訳すが、目の前に川があるか無いかの違いを無視すれば、瀑布が堂々と流れ落ちることに変わりはない。

詩の形

 仄起こり七言絶句の形であって、下平声一先(せん)韻の煙、川、天の字が使われている。

結句 転句 承句 起句

作者

李白  701~762

  盛唐時代の詩人

 四川省の青蓮郷の人といわれるが出生には謎が多い。若いころ任侠の徒と交わったり、隠者のように山に籠ったりの暮らしを送っていた。25歳ごろ故国を離れ漂泊しながら42歳で長安に赴いた。天才的詩才が玄宗皇帝にも知られ、2年間は帝の側近にあったが、豪放な性格から追放され、再び漂泊した。安禄山の乱後では反朝廷側に立ったため囚われ流罪となったがのち赦され、長江を下る旅の途上で亡くなったといわれている。あまりの自由奔放・変幻自在の性格や詩風のためか、世の人は「詩仙」と称えている。酒と月を愛した。享年62。