漢詩紹介

読み方

  • 鄕に回りて偶書す<賀知章>
  • 少小にして家を離れ 老大にして囘る
  • 鄕音改まる無く 鬢毛催す
  • 兒童相見て 相識らず
  • 笑って問う客は 何處從り來るかと
  • きょうにかえりてたまたましょす<がちしょう>
  • しょうしょうにしていえをはなれ ろうだいにしてかえる
  • きょうおんあらたまるなく びんもうもよおす
  • じどうあいみて あいしらず
  • わらってとうかくは いずこよりきたるかと

字解

  • 少 小
    若いころ
  • 老 大
    年とってから
  • 鄕 音
    いなかのなまり 生まれ故郷のなまり
  • 鬢毛催
    髪の毛が白く老いさらぼうこと
  • 兒 童
    近所の子どもでなく一族内の子どもと解す可きである

意解

 若い時に故郷を出て年老いて今帰って来た。何年たっても故郷のなまりはなおらないが、頭の髪の毛は白くなってしまった。子供達は自分がこの土地の者だということを知らず、自分もどこの家の子かも分からない。笑いながら「おじさんはどこから来たのですか」と問いかけるのであった。

備考

 承句の催が摧となっているものもある。この詩の構造は仄起こり七言絶句の形であって、上平声十灰(かい)韻の囘、催、來の字が使われている。

結句 転句 承句 起句

作者略伝

賀知章 659-744

 盛唐の詩人、字は季真(きしん)、越州永興(えっしゅうえいこう 淅江省蕭山県(せっこうしょうしょうざんけん))の人、則天武后(そくてんぶこう)の証聖(しょうせい)元年(695)の進士、玄宗の開元十三年(725)礼部(れいぶ)侍郎にいたる。杜甫の飲中八仙の一人。酒を飲む。晩年故郷に帰って間もなく死す。年86。