漢詩紹介

読み方
- 秋浦の歌 <李 白>
- 白髪 三千丈
- 愁いに縁って 箇の似く長し
- 知らず 明鏡の裏
- 何れの処にか 秋霜を得たる
- しゅうほのうた <りはく>
- はくはつ さんぜんじょう
- うれいによって かくのごとくながし
- しらず めいきょうのうち
- いずれのところにか しゅうそうをえたる
詩の意味
3000丈もあろうかという私の白髪は、長年の愁いによって、こんなにも長くなってしまった。
鏡の中にいるのは確かに自分のはずだが、全く知らない誰かを見るようで、どこでこんな秋の霜のような白髪を伸ばしてしまったのかわからない。
語句の意味
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- 秋 浦
- 地名 安徽省貴池県(あんきしょうきちけん)の西南(長江下流) 晩年の李白が放浪の末にたどり着いた地
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- 三千丈
- 当時の1丈は約3.3メートル
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- 似 箇
- 「如此」と同じ 「かくのごとし」と読む
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- 明鏡裏
- 澄んだ鏡の中に 「裏」は中
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- 秋 霜
- 秋の霜のような白髪
鑑賞
憎めない誇張表現「白髪三千丈」
「白髪三千丈」 この表現だけがやたら有名で、中国人の大げささの表現に引用されたりするが、この詩の背景を考えると、これはユーモアなどではなく、深い孤独感と悲しみの表れだと思われる。「三千丈」は髪の長さだけでなく様々な出来事が通り過ぎた長い年月も暗示していないか。次の「愁い」の内容も知りたい。9年前に「清平調詞」の失態と誤解で長安を追放され、各地を放浪せざるを得なかった数年間の失意憂愁。遠くにいる息子や妻とこれからどう生き延びていくか。そんなことも悩みながら改めて鏡をのぞきこんだ。そこに54年間が浮き上がったという鑑賞はどうだろう。全句に配置された、李白ならではの誇張と非凡な着想による表現は、この天才詩人にかかると、ある種のとぼけた明るさが伝わるのは不思議である。たとえば「白髪三千丈」や日ごろ鏡を見て身の衰えや白髪になりゆく変化は知っていように、あたかも突然の発見のような奇抜表現。李白はこの地で秋浦吟17首を作った。この詩はその15首目に当たる。
参考
「秋浦吟」其の四に同趣の歌がある。
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- 両鬢(りょうびん)秋浦に入り
- (両鬢=左右の白髪=作者)
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- 一朝にして颯(さつ)として已(すで)に衰う
- (颯=速いさま)
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- 猿声白髪を催し
- (催=促す)
- 長短尽く糸を成す
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- 〔意〕
- 私の左右の鬢は、秋浦に来てからいっぺんにバサバサになってしまった。悲しい猿の鳴き声にせきたてられて白髪になり、長いのも短いのも、すっかり絹糸のように細くなってしまった。
詩の形
仄起こり五言絶句の形であって、下平声七陽(よう)韻の長、霜の字が使われている。
結句 | 転句 | 承句 | 起句 |
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作者
李 白 701~762
盛唐時代の大詩人
四川省の青蓮郷(せいれんきょう)の人といわれるが出生には謎が多い。若いころ任侠の徒と交わったり、隠者のように山にこもったりの暮らしを送っていた。25歳ごろ故国を離れ漂泊しながら42歳で長安に赴いた。天才的詩才が玄宗皇帝にも知られ、2年間は帝の側近にあったが、豪放な性格から追放され、再び漂泊した。安禄山の乱後では反朝廷側に立ったため囚われ流罪となったがのち赦され、長江を下る旅の途上で亡くなったといわれている。あまりの自由奔放・変幻自在の性格や詩風のためか、世の人は「詩仙」と称えている。酒と月を愛した。享年62。