漢詩紹介

銷夏詩 袁 枚

読み方

  •  銷夏の詩  <袁 枚>
  • 衣冠を著けざること 半年に近く
  • 水雲深き処 花を抱いて眠る
  • 平生自ら想う 無官の楽しみ
  • 第一人に驕る 六月の天
  •  しょうかのし  <えんばい>
  • いかんをつけざること はんねんにちかく
  • すいうんふかきところ はなをいだいてねむる
  • へいぜいみずからおもオ むかんのたのしみ
  • だいいちひとにおごる ろくがつのてん

詩の意味

 官服や冠をつけた役人生活を辞し半年が過ぎ、水と雲の豊かな別邸で花に囲まれて眠るといった今の悠々自適の生活。
 在職のころから無冠後に楽しみを得ようと思ってきたが、今それが実現した。まず第一に、未だ役人を続けている人に、この炎天下の6月にも自分は涼しく暮らしていることを威張ってやりたいものだ。

語句の意味

  • 銷 夏
    夏の暑さを静める ここでは退官後の楽しさ
  • 驕 人
    他人に対して威張ること
  • 六 月
    新暦7月ごろの暑い時分

鑑賞

  威張ってみたいとは少し筆が滑ったのか

 これが名詩なのかと思えるほど現実的で饒舌(じょうぜつ)な表現は珍しい。確かにこの詩は役人生活の煩わしさを炎暑にたとえ、無位無官となって悠々自適する楽しさを歌ったものである。窮屈で気の休まらない役人生活から、花に囲まれての気ままな別荘生活。多くのサラリーマンの憧れの境地であり、わかり過ぎるほどわかる。ある鑑賞文によると「この『花』は美人とみてよい。多くの女弟子に囲まれ、また妓女たちにかしずかれて生きた風流人の真骨頂がここにある」と。ふしだらな人物にも思えるが、それが袁枚という人なのか。ただ結句の態度はいかがなものか。汗水たらして働く役人に対して、「暑いのにご苦労さま」と一段高いところで涼しい顔をしているようにみえる。この皮肉っぽい態度を若い役人が知ったら、どう思うことだろう。

参考

 〝竹林の七賢〟のように俗世間を避け、自然の世界に身をおくという例は多くあり、中でも有名な詩人として遠い昔の東晋時代に出現した陶淵明は40歳で職を辞し、廬山を遠くに眺める奥深い所に居を定めての生活(隠遁=いんとん)を人は田園・自然詩人と評した。又王維も高級官僚でありながら淵明にならって、妻を亡くした晩年、終南山の一角、輞川(もうせん)荘において、自然との営みの中で人生の本質を見つけ、その暮らしぶりを描いた「竹里館」や「鹿柴」などの詩が生まれた。

詩の形

 仄起こり七言絶句の形であって、下平声一先(せん)韻の年、眠、天の字が使われている。

結句 転句 承句 起句

作者

袁 枚  1716~1797

 清朝の役人・詩人

 銭塘(せんとう=浙江省)の人。字は子才(しさい)、号は簡斎(かんさい)または随園。乾隆(けんりゅう)帝時代の進士。各地の知事を務めたが、40歳で官界を辞した。退官後は江寧(こうねい=江蘇省南京市)に住み、小倉山(しょうそうさん)に別荘「随園」を営み、自然の中で詩を作って楽しんだ。世に「随園先生」と呼ばれた。その詩は旧習に捉われず自由を尊ぶあまり個性豊かな表現が誇張され、着想奇抜で、特に七言律詩は当時もてはやされた。嘉慶(かけい)2年没す。享年82。「随園随筆」「随園詩話」「小倉山房集(しょうそうさんぼうしゅう)」がある。