漢詩紹介

読み方
- 江楼にて感を書す<趙嘏>
- 獨り江樓に上れば 思い渺然たり
- 月光水の如く 水天に連なる
- 同に來って 月を翫びし人は 何處ぞ
- 風景依稀として 去年に似たり
- こうろうにてかんをしょす<ちょうか>
- ひとりこうろうにのぼれば おもいびょうぜんたり
- げっこうみずのごとく みずてんにつらなる
- どうにきたって つきをもてあそびしひとは いずこぞ
- ふうけいいきとして きょねんににたり
字解
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- 江 樓
- 川べの高殿
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- 渺 然
- はるかなさま・かすかにとおいさま
-
- 翫
- なぐさみたのしんだ
-
- 依 稀
- よくにているさま
意解
ただ一人川のほとりの高楼に登れば、思い出は果てしなくよみがえってくる。月光は水のように清く澄(す)みわたり、川の水も空につらなって流れている。
思えば去年共に来てこの月をめでた人は、今はどこにいるのであろうか(もうこの世にはいないのだ)。ただ風景だけは去年とそっくりで少しも変わってはいないのに。
備考
この詩の構造は仄起こり七言絶句の形であって、下平声一先(せん)の韻の然、天、年の字が用いられている。
作者略伝
趙 嘏 810?・815?-856?
晩唐の頃の詩人。字は承祐(しょうゆう)。山陽(江蘇(こうそ)省)の人。会昌(かいしょう)四年(844)の進士。大中(たいちゅう)年間(847~860)に渭南(いなん・ 陝西(せんせい)省)の尉(じょう・刑獄をつかさどる役人)に任ぜられた。当時の名士たちは趙かのことを評価したが、官は低く思うように昇進しない まま没したらしい。しかし詩人としての名は高かった。「長安晩秋」を詠じた詩中の句、「長笛一聲(ちょうてきいっせい)人樓(ひとろう)に倚(よ)る」は杜牧の激賞をうけたといわれる。 著書に「渭南集」と「編年詩」が残っている。