漢詩紹介

読み方
- 夏日悟空上人の院に題す<杜荀鶴>
- 三伏門を閉じて 一衲を披く
- 兼ねて松竹の 房廊を蔭う無し
- 安禪は必ずしも 山水を須いず
- 心頭を滅卻すれば 火も亦涼し
- かじつごくうしょうにんのいんにだいす<とじゅんかく>
- さんぷくもんをとじて いちのうをひらく
- かねてしょうちくの ぼうろう(オ)をおおうなし
- あんぜんはかならずしも さんすいをもちいず
- しんとうをめっきゃくすれば ひもまたすずし
字解
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- 悟空上人
- 人物は不詳
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- 院
- 僧の住居
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- 三 伏
- 夏至のあと三番目の庚(かのえ)の日を初伏(しょふく=今の7月中旬) 四番目を中伏(同7月下旬)立秋後の最初の庚の日を末伏(同8月初旬)といい あわせて三伏と呼ぶ 暑さのもっとも厳しい時期
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- 房 廊
- 「房」は部屋 「廊」は廊下 ひさし
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- 安 禪
- 座禅をして雑念を無くす 夏安居座夏(げあんござげ)といって夏にする座禅がある
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- 心 頭
- こころ
意解
暑さの厳しい三伏の時期に、悟空上人は門を閉ざして僧衣をきちんと着ております。その上、強い日差しから住まいを蔭ってくれる松や竹の樹木もありません。しかし、座禅をして修業に励むには、必ずしも山や川を必要としない。暑いと思う心を消し去れば、火でさえ自然と涼しく感じられるものである。
備考
この詩の第三句と第四句は古来より有名な句で、京都の東福寺の福嶋俊翁老師の教示によれば、禅家の「碧巌集(へきがんしゅう)」の第四三則「洞山無寒暑」の話の中にも引用されている。織田信長が天正10年(1582)に甲斐の恵林寺(えりんじ)を火攻めにした時、快川和尚は衆僧とともに楼門に上がり、この句を誦しながら焼死したなどの逸話がある。第四句は「滅得心中火自涼(心中を滅し得たれば火自ずから涼し)」もある。 詩の構造は仄起こり七言絶句であって、下平声七陽(よう)韻の廊、涼の字が使われている。起句は踏み落としである。
結句 | 転句 | 承句 | 起句 |
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作者略伝
杜荀鶴 846-904
晩唐の詩人。字は彦之(げんし)、号は九華山人。池(ち)州(安徽省)の人。大順2年(891)46歳でようやく進士に及第し、翰林(かんりん)学士・主客員外知制誥(ちせいこう)などを歴任した。伝説では杜牧の末子といわれている。軽薄な性格とも評されているが、詩を作るのが巧みで、「滄浪詩話」ではその詩体を杜荀鶴体と呼んでいる。「唐風集」3巻がある。