漢詩紹介

読み方
- 花月吟<唐伯虎>
- 花有り月無ければ 恨み茫茫
- 月有り花無ければ恨み轉長し
- 花美人に似て 月鏡に臨み
- 月明水の如く 花香を照らす
- 笻に扶けられて月下花を尋ねて歩み
- 酒を携えて花前月に對して嘗む
- 此の如き好花 此の如き月
- 花月を將て 尋常と作す莫れ
- かげつぎん<とうはくこ>
- はなありつきなければ うらみぼうぼう
- つきありはななければうらみうたたながし
- かびひとににて げっきょうにのぞみ
- げつめいみずのごとく かこうをてらす
- つえにたすけられてげっか はなをたずねてあゆみ
- さけをたずさえてかぜん つきにたいしてなむ
- かくのごときこうか かくのごときつき
- かげつをもって じんじょうとなすなかれ
字解
-
- 恨
- ものたりなく思うこと。
-
- 茫 茫
- ぼんやりしたようす
-
- 轉
- いよいよ さらに
-
- 笻
- 杖 この場合中国の竹で節がたかく 中がつまっている
-
- 嘗
- 口に味わう ここでは酒を飲むこと
-
- 尋 常
- つね なみ ここではいつでも
-
- 莫
- ・・・してはいけない
意解
花が咲き(そこに月が出ていれば一層よい感じがするのであるが)もし月が出ていなければ、なんとなくぼんやりと気が抜けた感じがして、恨みを残すのであり、また月が出ていても、花が咲いていなければさらに恨みを長くひくのである。
(今夜は花が咲き月も出て)美しい花はちょうど美人が、鏡に向かうように、月にのぞんでおり、月明りはまた水が澄んでいるように、香りのよい花を照らしている。
この夜、杖を曳いて月下に花を尋ねて散歩し、酒を携えて花を前にし、月を見て杯を傾ける。
このような好い花、好い月を同時に見るということは、きわめて稀なことで、いつでも見られるとは思ってはいけない。
備考
平仄も対句も規則正しく配置されているが、花、月の文字を「花月吟」の題意に合わせて多用したものであろう。
この詩の構造は、平起こり七言律詩の形であって、下平声七陽(よう)韻の茫、長、香、嘗、常の字が使われている。
尾聯 | 頸聯 | 頷聯 | 首聯 |
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作者略伝
唐伯虎 1470-1523
明(みん)の画人、名は寅(いん)、字は伯虎または子畏(しい)、六如居士(ろくじょこじ)、呉人(ごじん)と号した。明代第一の画家と称せられた沈石田(ちんせきでん)の弟子で、人物山水画に秀で、また詩も石田と共に有名。嘉靖(かせい)二年没す。年54。
参考
明の時代(1368‐1644)代表的詩人
高啓 丘濬 唐白虎 李夢陽(りぼうよう)李攀龍(りはんりゅう)
異民族支配の元(げん)の時代は文学のレベルは低かったが、明(みん)に入ってふたたび詩は盛んになって来たが、盛唐の詩風をまねて新鮮さは少なかった。その中にあって高啓は、自由奔放、字句清新でその気魄は李白に通じるものがあった。続く李夢陽、李攀龍等は盛唐に返れと主張していた。