漢詩紹介

読み方

  • 萬歳樓<王昌齢>
  • 江上巍巍たり 萬歳樓
  • 知らず経歴す 幾千秋
  • 年年喜び見る 山長えに在るを
  • 日日悲しみ看る 水獨り流るるを
  • 猿狖何ぞ曾て 暮嶺を離れん
  • 鸕鷀空しく自ら 寒洲に泛かぶ
  • 誰か堪えん登望 雲烟の裏
  • 晩に向かって茫茫 旅愁を發するに
  • ばんざいろう<おうしょうれい>
  • こうじょうぎぎたり ばんざいろう
  • しらずけいれきす いくせんしゅう
  • ねんねんよろこびみる やまとこしえにあるを
  • にちにちかなしみみる みずひとりながるるを
  • えんゆうなんぞかつて ぼれいをはなれん
  • ろじむなしくみずから かんしゅうにうかぶ
  • たれかたえんとうぼう うんえんのうち
  • ばんにむかってぼうぼう りょしゅうをはっするに

字解

  • 萬歳樓
    江蘇省鎮江城の西南にあり 晋の刺史王恭が建てた
  • 巍巍
    高く聳(そび)えている
  • 猿 狖
    猿の一種
  • 鸕 鷀
    水鳥で鵜
  • 寒洲
    寒々とした中洲
  • 雲烟
    もや
  • 茫茫
    ぼんやりするさま

意解

 長江に臨んで高く萬歳樓が聳えている。今日までに幾千年の時を経て、その間にどんな変化を見たことであろうか私にはわからない。
 年々喜ばしく見るものは山々の姿が永遠に変わらないことで、日々悲しく眺めるものは水がただ流れ去って還らないことである。
 (その地に生まれた)猿狖はいままで夕暮れの嶺を離れたことがあったろうか、(いつも故郷を去ったことはなく)水に生息する鵜はむなしく寒々とした中洲のあたりに浮かんでいる。(自分の流浪のすがたに似ている)
 もやがかすむ中に、この楼に登り四方を眺め、やがて夕暮れになってぼんやりと旅愁がわき起こってくることにいったい誰が堪えられるであろうか。

備考

 この詩の構造は、仄起こり七言律詩の形であって、下平声十一尤(ゆう)韻の樓、秋、流、洲、愁の字が使われている。「唐詩選」に所収されている。

尾聯 頸聯 頷聯 首聯

作者略伝

王昌齢 698-755(諸説あり)

 盛唐の詩人、字は少伯(しょうはく)、京兆(けいちょう)《陜西省(せんせいしょう)西安》の人、一説には江寧(こうねい)《江蘇省南京》の人ともいう。開元(かいげん)15年(727)の進士(しんし)、校書郎(こうしょろう)から氾水(はんすい)《河南省》の尉官(いかん)となるも素行おさまらず各地に転任する。七言絶句の名手で、李白、孟浩然(もうこうねん)、高適(こうせき)と交友あり、安禄山の乱の時郷里に帰り刺史(しし)〔長官〕閭丘暁(りょきゅうぎょう)に殺される。「王昌齢詩集」五巻がある。

参考

唐詩の代表的詩人
 《初唐》王勃 劉廷之 駱賓王 狄仁傑 杜審言 宋之問 沈佺期
 《盛唐》王翰 孟浩然 王之渙 賀知章 崔顥 王昌齢 王維 李白 高適 杜甫 岑参 崔敏童 于濆 張謂
 《中唐》劉長卿 盧綸 張継 劉宗元 韓愈 李益 張籍 王建 薛濤 劉禹錫 賈島 白居易
 《晩唐》杜牧 許渾 趙嘏 李商隠 魚玄機 曹松 韋荘