漢詩紹介

吟者:岸本快伸・古賀千翔
2010年5月掲載
読み方
- 秋日偶成<程 明道>
- 閑來事として 従容ならざるは無し
- 睡り覺むれば東窓 日已に紅なり
- 萬物靜觀すれば 皆自得
- 四時の佳興は 人と同じ
- 道は通ず天地 有形の外
- 思いは入る風雲 變態の中
- 富貴にして淫せず貧賤にして樂しむ
- 男児此に到らば 是豪雄
- しゅうじつぐうせい<てい めいどう>
- かんらいこととして しょうようならざるはなし
- ねむりさむればとうそう ひすでにくれないなり
- ばんぶつせいかんすれば みなじとく
- しじのかきょうは ひととおなじ
- みちはつうずてんち ゆうけいのほか
- おもいはいるふううん へんたいのうち
- ふうきにしていんせず ひんせんにしてたのしむ
- だんじここにいたらば これごうゆう
字解
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- 閑來
- (役職を離れて)ひまな生活になってから
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- 従容
- ゆったりとしたさま
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- 皆自得
- それぞれに処を得て納得しているが
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- 佳興
- よい趣
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- 有形外
- 形の無いもの
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- 變態
- ここでは世相の移り変わりの定まらないさま
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- 富貴
- 孟子に「富貴不能淫貧賤不能移」(富貴も淫すること能ず貧賤も移すこと能ず)とあるに基づく
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- 豪雄
- すぐれた人物
意解
(役職を離れて)ひまな生活になってからは何事もゆったりとして、起きるのも朝日が東の窓に赤々とさしてからである。
あたりの物を静に見れば、皆ところを得てそこにあり、納得しており、春夏秋冬の自然におりなすよい趣は人間と一体となり融けあっている。
我らの信じる人の道は、天地間の無形の物にまで通じており、(この正しい人の道が行われてほしいという)思いは(有形である)風や雲や世相の移り変わりの中にまでは入りこんでいる。
さてお金があって身分が高くてもまどわされず道を外れることなく、貧乏で身分が低くても人の道を楽しむ、(という言葉があるが)男子たるものは修養を積み、このような境地にいたるならば、すなわち真のすぐれた人物である。
備考
この詩の構造は、平起こり七言律詩の形であって、上平声二冬(とう)韻の容と上平声一東(とう)韻の紅、同、中、雄の字が通韻として使われている。
尾聯 | 頸聯 | 頷聯 | 首聯 |
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作者略伝
程 明道 1032-1085
北宋の大儒者。河南省洛陽の人。名は顥(こう)、字は伯淳(はくじゅん)。幼くして非凡の才あり。諸国を歴任して政治上の功績がが、王安石の新法に反論して朝廷を去る。のち召されたが任につかず、元豊(げんぽう)八年54歳で没す。純公と謚(おくりな)される。
参考
北宋時代の(960?-1126)代表的詩人
會鞏 程明道 李清照 林逋 歐陽修 王安石 蘇軾
北宋の時代は文学の中心は、詩から文に移っていたが、文人宰相歐陽修の時代、その門下の王安石・蘇軾等の詩人が出て、唐詩と一線を画した。王安石は強烈な個性と意表をつく清新詩を、蘇軾は自然を愛し、李白・杜甫・韓愈・白居易につづいて宋を代表する詩人である。