漢詩紹介
CD④収録 吟者:小坂永舟
2016年 9月掲載
読み方
- 歸 省<狄 仁傑>
- 幾度か天涯 白雲を望む
- 今朝歸省して 雙親に見ゆ
- 春秋富みて 朱顔在りと雖も
- 歳月憑る無くして 白髪新たなり
- 美味羹を調して 玉筍を呈し
- 佳殽饌に入って 冰鱗を鱠にす
- 人生百行 孝に如くは無し
- 此の志眷眷として 古人を慕う
- きせい<てき じんけつ>
- いくたびかてんがい はくうんをのぞむ
- こんちょうきせいして そうしんにまみゆ
- しゅんじゅうとみて しゅがんありといえども
- さいげつよるなくして はくはつあらたなり
- びみこうをちょうして ぎょくじゅんをていし
- かこうせんにいって ひょうりんをかいにす
- じんせいひゃっこう こうにしくはなし
- このこころざしけんけんとして こじんをしとう
字解
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- 天涯
- 天の涯 きわめて遠いところ
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- 雙親
- 父母・両親
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- 朱顔
- 顔色がよい 元気な顔色
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- 調羹
- 羹(あつもの)を調理する
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- 玉筍
- たけのこ
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- 佳殽
- よい肴(さかな)
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- 入饌
- 膳の用意をする
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- 冰鱗
- 氷の下の鯉
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- 眷眷
- ねんごろに厚く思う
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- 古人
- ここでは孝行な人として有名な呉の孟宗や晋の王祥
意解
幾度となく遠く白雲を望みながら(両親の家はあのあたりだろう)お変わり無いかと気づかいながら過ごして来たが、ようやく今朝帰省して父母にお会いできた。
(顔色もよくお元気そうであるが長い年月お会いしていなかったので)歳月には逆らえず白髪が増えられたのは、どうしようもない。
(そこで私は心をつくして)羹を調理し、筍(たけのこ)を差し上げたり、よい肴として寒中の鯉をなますにしたりして、膳の用意をした。
人生にはいろいろ良い行いがあるが、親に孝行を尽くすということが第一であって、孝道こそ最も大切である。自分もこのことを肝に銘じ、昔の孝子(こうし)のことを思い慕いつつ、見習ってみたいものである。
備考
この詩の構造は、仄起こり七言律詩の形であって、上平声十二文(ぶん)韻の雲と上平声十一眞(しん)韻の親、新、鱗、人の字が通韻として使われている。第八句は平仄が整っていない。
尾聯 | 頸聯 | 頷聯 | 首聯 |
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作者略伝
狄 仁傑 630-700
初唐の人。山西省太原の人。字は懐英(かいえい)。則天武后のとき宰相(さいしょう)《天子を補佐して役人を統率し政治を行う人》となり、直諫(ちょっかん)をはばからず武后の信任あつく国老と尊ばれた。嗣聖(しせい)十七年没。年70。
参考
慕古人 元代の郭居敬の編集したものが有名。
中国古来の孝子、二十四孝の孟宗、王祥
《孟宗》三国時代の人母がたけのこをほしがったが冬のため、たけのこがないので孟宗が竹林に入って母にたけのこを与えて下さいと祈ったところ、忽ちたけのこがはえたという。
《王祥》晋の人継母が冬に生魚を食べたいといったが川には氷がはっていた。王祥が魚を欲しがったところ川の氷が自然に破れて鯉がでてきたという。