漢詩紹介

読み方
- 妻子良友に別る<謝 枋得>
- 雪中の松柏 愈靑靑
- 綱常を扶植するは 此の行に在り
- 天下久しく無し 龔勝の潔
- 人間何ぞ獨り 伯夷のみ清からんや
- 義は高くして便ち覺ゆ 生の捨つるに堪えたるを
- 禮は重くして方に知る 死の甚だ輕きを
- 南八男兒 終に屈せず
- 皇天上帝 眼分明
- さいしりょうゆうにわかる<しゃほうとく>
- せっちゅうのしょうはく いよいよせいせい
- こうじょうをふしょくするは このこうにあり
- てんかひさしくなし きょうしょうのけつ
- にんげんなんぞひとり はくいのみきよやからんや
- ぎはたかくしてすなわちおぼゆ せいのすつるにたえたるを
- れいはおもくしてまさにしる しのはなはだかろきを
- なんぱちだんじ ついにくつせず
- こうてんじょうてい がんぶんめい
字解
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- 雪中松柏
- 雪の中の松や柏「論語」に「子曰歳寒然後知松柏之後凋也」《子曰く、歳(とし)寒くして然(しか)る後(のち)に松柏の凋(しぼ)むに後(おく)るるを知るなり》とある
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- 綱常
- 人の守るべき道徳《三綱五常(さんこうごじょう)の略語》(三綱=君臣、父子、夫婦)(五常=仁、義、礼、智、信)
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- 扶植
- しっかりとうえつける
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- 龔勝・伯夷
- 人名 龔勝は前漢末の人 伯夷は殷代末の人 いずれも清廉潔白な人
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- 南八
- 人名 南霽雲(なんせいうん)のこと 安禄山の乱のとき正義をつらぬいた人 八は排行で 南家八番目の人の意
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- 上帝
- 天子のこと
意解
雪中の松や柏は、色愈々青く、歳寒に耐えることができるが、(今自分もちょうどそれと同様に死を覚悟で北京に送られる)。この行為は人の守るべき道徳をしっかりと植えつけるためである。
天下には久しく龔勝のように清廉な人間はいないが、人間の中でどうしてただ伯夷のみが潔白といえようか。自分もこの人達のように清潔でありたい。
義は元来高尚なものであって、これを貫きとおすためには命をすてる、というぐらいの覚悟がいり、また礼の精神はまことに大切で、これを守るためには死など非常に軽いものであると自覚している。
南八男児は不義には遂に屈しなかった、(自分もこの思いは同じである)天の神や天子の眼は明らかにものを見分けられるので、この正しい心をはっきりとお分かりになられることであろう。
備考
本題は「初到建寧賦詩並序 魏參政執拘投北 行有期 死有日 詩別妻子良友良朋」《初めて建寧(けんねい)に到り詩を賦す並びに序 魏参政執拘(しっこう)して北に投ず 行く期(き)有り 死する日有り 詩もて妻子良友良朋に別る》であるが本会では「別妻子良友」と簡略にした。この詩の構造は、平起こり七言律詩の形であって、下平声九青(せい)韻の靑と、下平声八庚(こう)韻の行、淸、輕、明の字が使われている。
尾聯 | 頸聯 | 頷聯 | 首聯 |
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作者略伝
謝枋得 1226-1289
南宋の詩人。字は君直(くんちょく)、疊山(じょうざん)と号す。江西省信州の人。豪爽(ごうそう)直言を好み忠義の士を以って任じた。文天祥と同期の進士。元軍が江南に入るや抵抗するも失敗し、変名して逃げる。のち元に仕官をすすめられたが拒み通したために捕らえられ北京に護送される時に妻子良友に示した詩である。至元二十五年北京で餓死した。年六十三。「文章軌範(ぶんしょうきはん)」の著がある。
参考
南宋時代(1127-1279)の代表的詩人
范成大 朱熹楊万里 陸游 方岳 文天祥 真山民 謝枋得 戴益