漢詩紹介

読み方
- 蜀相<杜甫>
- 丞相の祠堂 何れの處にか尋ねん
- 錦官城外 柏森森
- 階に映ずる碧草 自ずから春色
- 葉を隔つる黄鸝 空しく好音
- 三顧頻りに煩わす 天下の計りごと
- 兩朝開き濟す 老臣の心
- 師を出だして未だ捷たず 身先ず死す
- 長く英雄をして 涙襟に滿た使む
- しょくしょう<とほ>
- じょうしょうのしどう いずれのところにかたずねん
- きんかんじょうがい はくしんしん
- かいにえいずるへきそう おのずからしゅんしょく
- はをへだつるおうり むなしくこういん
- さんこしきりにわずらわす てんかのはかりごと
- りょうちょうひらきなす ろうしんのこころ
- しをいだしていまだかたず みまずしす
- ながくえいゆうをして なみだきんにみたしむ
字解
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- 蜀 相
- 蜀漢の丞相 諸葛孔明
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- 丞 相
- 執政の大臣の官名 宰相
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- 錦官城
- 廟の階段に映える
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- 映 階
- 蜀漢の都 今の四川省成都
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- 頻 煩
- 助力を仰ぐためしきりに訪れる
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- 兩 朝
- 劉備と劉禅の二朝
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- 開 濟
- 君の心を開きたすけること
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- 老 臣
- 孔明
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- 出 師
- 出兵 出軍
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- 身先死
- 孔明が目的を達しないうちに五丈原の陣営で病没した
意解
蜀漢の丞相諸葛孔明を祠(まつ)った廟はどこをたずねたらよいのであろうかと思っていると、成都郊外の柏(かしわ)の木々が生い茂った所にあった。
廟の階段のほとりに映える碧の草は、あたりに春の色を自然に見せ、柏の葉陰にはうぐいすが聞く人もないのにいたずらに好い音色で鳴いている。
昔、劉備は孔明を三度も訪ねて天下を安定させる計を問い、礼をつくして、軍師として出馬を乞うたのであった。孔明は劉備と劉禅の父子二代にわたって、苦難をきり開いて老臣としての心を尽くしたのである。
しかし、魏を討つ軍をおこしたが戦に勝たないうちに、その身は病のため亡くなり、その忠誠は長く後世の英雄たちに涙を流させたのである。
備考
この詩は杜甫が衣食を求めて華州を去り、秦州(しんしゅう)・同谷(どうこく)を経て成都にたどり着いて草堂を卜した翌年760年(上元元年)敬慕する孔明の廟に詣で感慨をのべたもの。49歳の作。「唐詩三百首」に所収されている。
詩の構造は仄起こり七言律詩の形であって、下平声十二侵(しん)韻の尋、森、音、心、襟の字が使われている。
尾聯 | 頸聯 | 頷聯 | 首聯 |
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作者略伝
杜 甫 712-770
盛唐の詩人で李白と並び称せられ、中国詩史の上での偉大な詩人である。字は子美(しび)。少陵(しょうりょう)または杜陵と号す。洛陽に近い鞏県(きょうけん)の生まれ、7歳より詩を作る。各地を放浪し生活は窮乏を極め、安禄山の乱に賊軍に捕らわれる。律詩に巧みで名作が多い。湖南省潭州(たんしゅう)から岳州に向かう船の中で没す。年59。李白の詩仙に対して、杜甫は詩聖と呼ばれる。