漢詩紹介

CD②収録 吟者:中島菖豊
2015年5月掲載
読み方
- 高きに登る<杜甫>
- 風急に天高くして 猿嘯哀し
- 渚清く沙白くして 鳥飛び廻る
- 無邊の落木 蕭蕭として下り
- 不盡の長江 滾滾として來る
- 萬里悲秋 常に客と作り
- 百年多病 獨り臺に登る
- 艱難苦だ恨む 繁霜の鬢
- 潦倒新たに停む 濁酒の杯
- たかきにのぼる<とほ>
- かぜきゅうにてんたかくして えんしょうかなし
- なぎさきよくすなしろくして とりとびめぐる
- むへんのらくぼく しょうしょうとしてくだり
- ふじんのちょうこう こんこんとしてきたる
- ばんりひしゅう つねにかくとなり
- ひゃくねんたびょう ひとりだいにのぼる
- かんなんはなはだうらむ はんそうのびん
- ろうとうあらたにとどむ だくしゅのはい
字解
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- 登 高
- 昔中国では旧暦9月9日重陽の節句に小高い山や丘に登って酒に菊の花びらを浮かべて飲む風習があった
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- 無邊落木
- あたり一面限りない木の枝や落葉
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- 蕭 蕭
- ものさびしい 落葉するざわざわという音
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- 滾 滾
- 水のさかんに流れるさま
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- 萬里悲秋
- はるかに遠くまでもの悲しい秋
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- 苦 恨
- はなはだうらめしい
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- 繁 霜
- 霜のように髪の毛が白くなったこと
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- 潦 倒
- 老いぼれる おちぶれる
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- 新 停
- 最近やめた 禁酒したこと
意解
風ははげしく吹きわたり、天はいよいよ高く、猿の鳴き声が哀しげに聞こえてくる。見おろすと揚子江の渚は清く、砂浜は白く光って見える。その上を鳥が飛び回っている。
果てしない木々はもの寂しい中にざわざわという音をたてて葉を落とし、尽きることがない揚子江の水はさかんに流れている。
はるかに遠くまで旅を続けるもの悲しい秋、一生多病である身をもってひとり高台に登っている。
自分の一生は、艱難の連続で、はなはだうらめしいことに鬢の毛も真っ白くなり、そのうえに老いぼれてせめてもの慰めであった酒も近頃は飲めなくなった。(この淋しさをはらすことすらできない)
備考
この詩は成都を去り夔(き)州にいた767年(大暦2年)9月、多病で酒もやめ、ただ一人高台に登って作る。56歳の作。「唐詩三百首」「唐詩選」に所収されている。
四聯全て対句で構成されており、前半に景を、後半に情をのべ古今の七言律詩中の第一と評される。
詩の構造は仄起こり七言律詩の形であって、上平声十灰(かい)韻の哀、廻、來、臺、杯の字が使われている。
尾聯 | 頸聯 | 頷聯 | 首聯 |
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作者略伝
杜 甫 712-770
盛唐の詩人で李白と並び称せられ、中国詩史の上での偉大な詩人である。字は子美(しび)。少陵(しょうりょう)または杜陵と号す。洛陽に近い鞏県(きょうけん)の生まれ、7歳より詩を作る。各地を放浪し生活は窮乏を極め、安禄山の乱に賊軍に捕らわれる。律詩に巧みで名作が多い。湖南省潭州(たんしゅう)から岳州に向かう船の中で没す。年59。李白の詩仙に対して、杜甫は詩聖と呼ばれる。