漢詩紹介

読み方
- 山西の村に遊ぶ<陸游>
- 笑うこと莫れ農家 臘酒の渾るを
- 豊年客を留めて 鶏豚足る
- 山重水複 路無きかと疑う
- 柳暗花明 又一村
- 簫鼓追隨 春社近く
- 衣冠簡朴 古風存す
- 今從り若し閒に 月に乘ずるを許さば
- 杖を拄えて時と無く 夜門を叩かん
- さんせいのむらにあそぶ<りくゆう>
- わろうことなかれのうか ろうしゅのにごるを
- ほうねんかくをとどめて けいとんたる
- さんちょうすいふく みちなきかとうたごう
- りゅうあんかめい またいっそん
- しょうこついずい しゅんしゃちかく
- いかんかんぼく こふうそんす
- いまよりもしかんに つきにじょうずるをゆるさば
- つえをささえてときとなく よるもんをたたかん
字解
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- 山西村
- 固有名詞でなく山は三山 この三山の西の方にある村 山陰県(浙江省紹興)の西4粁ほどの所にある
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- 臘 酒
- 「臘」は12月 12月にしこんで正月にのむ酒
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- 渾
- 濁るに同じ どぶろくのこと
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- 留 客
- 客をもてなす
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- 山重水複
- 山が幾重にも重なり川が曲りくねって複雑なこと
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- 柳暗花明
- 田舎の美しい春景色の形容 柳がほの暗く繁っている中に桃の花が灯をともしたように明るく咲いている風情
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- 簫 鼓
- 笛や太鼓
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- 追 隨
- 後を追うようにして鳴りひびくさま
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- 衣冠簡朴
- 着物やかんむりは質素でかざらない
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- 閒
- ここではのんびりと ひまにまかせての意
意解
農家の師走じこみの酒は渾っていても笑わないで下さい。豊年ですからお客をもてなすには、鶏も豚もたくさんありますと言って、招かれた。
山が幾重にも重なりあい、川がまがりくねって、路は行き止りかと思っていると、柳がほの暗くしげる中に、桃の花がぱっと明るく咲いているところに、また一つの村が目の前にあらわれた。
春の祭りが近づいて来たのであろうか、笛や太鼓の音が、追っかけるように聞こえてくる。着ている衣服は簡素で古風な昔ながらの風俗をのこしている。
(まことにのびのびとしたこの山村の趣きは、私にはとっても楽しく、いい雰囲気なので)これからももし月の美しい夜に訪れてよいといって頂けるならばいつとはなく杖をついて、農家の門を叩いて訪れたいものである。
備考
この詩は作者が太古のような古めかしい素朴な趣きを残している三山の西の方の村に遊んでその楽しさを歌ったもので、春たけなわの平和な農村風景を描いた詩である。
隆興(現在の江西省南昌市)通判(副知事)の職を免ぜられ、郷里へ帰った翌年、1167年(乾道=けんどう=3年)春。43歳の作。
詩の構造は、仄起こり七言律詩の形であって、上平声十三元(げん)韻の渾、豚、村、存、門の字が使われている。
尾聯 | 頸聯 | 頷聯 | 首聯 |
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作者略伝
陸 游 1124-1209
中国南宋前期の人。号は放翁、官職に在り、詩人として南宋四大家(揚万里、范成大、尤袤=ゆうぼう)の隨一とされる。32歳から85歳の死に至るまでの50年間の詩作「剣南詩稿」85巻をのこし、総数1万首、晩年多作にして、その詩ことごとく充実す。愛国の詩人として常に北方平定を願っていたが果たされなかった。