漢詩紹介

吟者:稲田 菖胤
2005年3月掲載

読み方

  • 秋夕<杜牧>
  • 銀燭秋光 畫屏冷ややかなり
  • 輕羅小扇 流螢を撲つ
  • 天階の夜色 涼水の如し
  • 臥して看る牽牛 織女の星
  • しゅうせき<とぼく>
  • ぎんしょくしゅうこう がへいひややかなり
  • けいらしょうせん りゅうけいをうつ
  • てんかいのやしょく りょうみずのごとし
  • ふしてみる けんぎゅう しょくじょのほし

字解

  • 銀 燭
    銀の燭台
  • 畫 屏
    絵をかいた屏風(びょうぶ)
  • 輕 羅
    うすい絹を張った「うちわ」
  • 流 螢
    流れるように飛ぶほたる
  • 天 階
    一本に「天街」とあり、天階は天子の宮殿の階段をいい、宮中という意である
  • 臥 看
    寝たままで仰ぎみるさま
  • 牽牛織女星
    年に一回たなばたの夜、天の川をへだてて会うという彦星と織姫

意解

 白銀色の秋の夜のともしびの光が、彩(いろど)り豊かな絵屏風に冷たく照り映え、宮女がひとりうすい絹の団扇(うちわ)で小さくうちながら、飛び交う螢とたわむれている。
 天上の夜空のようすは、水のように涼しくみえて、その宮女は寝ながら牽牛(けんぎゅう)星と織女(しょくじょ)星をみつめつづけてばかりいる。

備考

 君に寵(めぐ)みを得ない宮女が、二つの星が一年に一度ずつでも相遇(あいあ)うことを羨んでいる情を写したものである。流螢を打ち、七夕星を仰ぎつつ、こぬ人を待ちわびる宮中の美女の姿態あらわには描かずして一幅(いっぷく)の人物画を完成させた手法がみられる詩である。
 この詩の構造は仄起こり七言絶句の形であって、下平声九青(せい)韻の屏、螢、星の字が使われている。

結句 転句 承句 起句

作者略伝

杜 牧 803-853

 晩唐の詩人、字(あざな)は牧之(ぼくし)、号は樊川(はんせん)、京兆万年(けいちょうばんねん)〔陝西省長安県(せんせいしょうちょうあんけん)〕の人。名家の出身にして828年進士(しんし)に及第後、地方、中央の官を歴任し中書舎人(ちゅうしょしゃじん)となって没す。資性剛直、容姿美しく歌舞を好み、青楼に浮名を流したこともあった。樊川文集二十巻、樊川詩集七巻あり、阿房宮賦(あぼうきゅうふ)は早年の作にして文名を高めた。年50。