漢詩紹介

CD②収録 吟者:川村朋映
2015年1月掲載

読み方

  • 静夜思<李白>
  • 牀前 月光を看る
  • 疑うらくは是 地上の霜かと
  • 頭を挙げて 山月を望み
  • 頭を低れて 故鄕を思う
  • せいやし<りはく>
  • しょうぜん げっこうをみる
  • うたごうらくはこれ ちじょうのしもかと
  • こうべをあげて さんげつをのぞみ
  • こうべをたれて こきょうをおもう

詩の意味

 静かな秋の夜、ふと寝台の前の床にそそぐ月の光を見ると、その白い輝きは、まるで地上におりた霜ではないのかと思ったほどであった。
 そして、頭(こうべ)を挙げて山の端にある月を見て、その光であったと知り、眺めているうちに遥か彼方の故郷のことを思い、知らず知らず頭をうなだれ、しみじみと感慨にふけるのである。

鑑賞

 静かな秋の夜の思い

 この詩は、李白が25歳で故郷を出て、長江流域を放浪しながら湖北省安陸の小寿山にいた頃の31歳の時の作です。
 月光が、あたり一面にさしている静かな秋の夜、冷え冷えとした霜かと思った白い光をたどり、その山月を望んで故郷を偲んでいます。

語句の意味

  • 静夜思
    静かな夜の思い
  • 牀 前
    寝台の前 「牀」は床(とこ)に同じ 中国式のベッド
  • 低 頭
    首をうなだれて もの思いに沈むさま

詩の形

 五言古詩の形であって、下平声七陽(よう)韻の光、霜、郷の字が使われている。三句目と四句目は対句(ついく)と言い、「挙頭」と「低頭」 、「望」と「思」、「山月」と「故郷」がそれぞれ対になっている。

作者

李 白 701-762
盛唐の詩人

 四川省の青蓮郷の人といわれるが出生には謎が多い。若いころ任侠の徒と交わったり、隠者のように山にこもったりの暮らしを送っていた。25歳ごろ故国を離れ漂泊しながら42歳で長安に赴いた。天才的詩才が玄宗皇帝にも知られ、2年間は帝の側近にあったが、豪放な性格から追放され再び各地を漂泊した。安禄山の乱では反皇帝派に立ったため囚われ流罪(るざい)となったがのち赦され、長江を下る旅の途上で亡くなったといわれている。あまりの自由奔放・変幻自在の性格や詩風のためか、世の人は李白のことを「詩仙」と称えている。酒と月をとりわけ愛し、それにまつわるエピソードが多く残っている。享年62歳。