漢詩紹介

読み方
- 夜受降城に上りて笛を聞く<李益>
- 囘樂峯前 沙雪に似たり
- 受降城外 月霜の如し
- 知らず何れの處にか 蘆管を吹く
- 一夜征人 盡く郷を望む
- よるじゅこうじょうにのぼりてふえをきく<りえき>
- かいらくほうぜん すなゆきににたり
- じゅこうじょうがい つきしものごとし
- しらずいずれのところにか ろかんをふく
- いちやせいじん ことごとくきょうをのぞむ
字解
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- 受降城
- 初め漢の武帝の時 匈奴(きょうど)の降服を受け入れるため塞外(さいがい)に築いたものであるが、唐の時代に突厥(とっけつ トルコ民族)の攻撃を防ぐため再興した
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- 囘樂峯
- 山西省大同府の西五百里にあるという。
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- 蘆 管
- 蘆(あし)の葉を巻いて管(くだ)にして作った笛、胡笳ともいう
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- 征 人
- 出征兵士 遠征中の守備兵
意解
囘樂峯の前にひろがる沙(すな)は雪に似て真白である。また受降城外を照らす月の光は霜のようにつめたく輝いている。
蘆笛(ろてき)を吹いているのはどこであろうか、あの物さびしい笛の音は遠征の兵士達に望郷の念をおこさせてやまないのである。
備考
晩秋の月夜受降城にのぼり胡笳の音を聞いて望郷の念にかられて作った詩といわれる。この詩の構造は仄起こり七言絶句の形であって、下平声七陽(よう)韻の霜、郷の字が使われている。起句は踏み落としになっていて、起句、承句は対句になっている。
結句 | 転句 | 承句 | 起句 |
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作者略伝
李 益 749?-827?
中唐の詩人。字は君虞(くんぐ)、朧西姑臧(ろうせいこぞう 現甘肅(かんしゅく)省武威(ぶい)県)の人。李賀(りが)と名を並べ七言絶句にすぐれて楽人(がくじん)きそって歌曲の詞にしたという。久しく辺塞(へんさい)に従軍しのち憲宗(けんそう)に召され、累進して礼部尚書にいたる、李君虞集二巻がある。