漢詩紹介

読み方
- 張生を送る<欧陽 修>
- 一別相逢う 十七春
- 頽顔衰髪 互いに相詢う
- 江湖我は再び 遷客と為る
- 道路君は猶 旅に困しむの人
- 老驥骨奇にして 心尚壮
- 靑松歳久しくして 色愈新たなり
- 山城寂寞 禮を為し難きも
- 濁酒辞すること無かれ 爵を擧ぐる頻りなるを
- ちょうせいをおくる<おうようしゅう>
- いちべつあいあう じゅうしちしゅん
- たいがんすいはつ たがいにあいとう
- こうこわれはふたたび せんかくとなる
- どうろきみはなお たびにくるしむのひと
- ろうきほねきにして こころなおそう
- せいしょうとしひさしくして いろいよいよあらたなり
- さんじょうせきばく れいをなしがたきも
- だくしゅじすることなかれ しゃくをあぐるしきりなるを
字解
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- 頽顔
- しわが増え衰えた顔
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- 相詢
- 互いに確かめ合う
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- 遷客
- 官位を下げ地方に移される人 左遷(させん)される人
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- 骨奇
- 骨相がすぐれている ここでは風格がすぐれている
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- 難為禮
- 十分なもてなしが出来ない
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- 衰髪
- 髪が抜けて白髪
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- 江湖
- 川や湖 ここでは地方のこと
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- 老驥
- 老いた名馬 ここでは英雄が晩年不遇なこと 魏武帝の歌に「老驥伏櫪志在千里」(老驥櫪に伏して志千里に在り)
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- 寂寞
- さびしく不自由
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- 爵
- 酒杯
意解
一たび別れてから、今再び逢うまでに十七回の春を数える年月が流れて、しわも増え黒髪も少なく白髪となり、お互いに身の上をたしかめあった。
私は再び地方に左遷された身であるが、君もまた定まった職もなくさすらいの旅に苦しんでいる。
老いた名馬はまだ骨相がすぐれ、心意気は盛んであり、また松は老木となっても風雪に耐えて青々とあざやかであるように《我々二人も駿馬(しゅんめ)や青松でありたいもの》。
山辺のいなか町は、寂しく不自由で、心づくしのもてなしも十分出来ないが、濁酒だけは遠慮せずに杯を重ねてくれたまえ。
備考
この詩は作者が安微省除県の長官であった時、十七年ぶりに不遇の旧友と再会し、互いに慰めあい友情の厚きを述べたものである。詩の構造は、仄起こり七言律詩の形であって、上平声十一眞(しん)韻の春、詢、人、新、頻の字が使われている。
尾聯 | 頸聯 | 頷聯 | 首聯 |
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作者略伝
欧陽 修 1007-1072
北宋の政治家、文学者。江西省永豊の人。欧陽が姓で名は修。(脩とも書く)。字は永叔(えいしゅく)、酔翁(すいおう)または六一居士(ろくいちこじ)と称し、文忠公と諡(おくりな)される。仁宗の天聖八年二十四歳で進士、累進して参知政事(宰相の副で執政をいう)になる。唐宋八大家(A46-2)参照の一人で、「新唐書」「新五代史」「六一詩話」「集古録」などの著書あり。熙寧(きねい)五年没す。年六十五。
参考
老驥 魏武帝《曹操》(155-220)の楽府「歩シテ夏門ヲ出テ行ク」、《「古詩源」では「亀は寿(いのちながし)と雖(いえど)も」と題す》にあり。
老驥伏櫪 老驥は櫪に伏すも 競馬は老いて厩にふせっていても、
志在千里 志は千里に在り 千里の遠きをかけめぐろうとする。
烈士暮年 烈士は暮年 高い志をもつ者は晩年になっても、
壮心不已 壮心已(や)まず その大志を成し遂げようとするものだ。