漢詩紹介

読み方
- 梅花<高啓>
- 瓊姿只合に 瑤臺に在るべし
- 誰か江南に向かって 處處に栽えたる
- 雪滿ちて山中 高士臥し
- 月明らかにして林下 美人來る
- 寒は依る疎影 蕭蕭の竹
- 春は掩う殘香 漠漠の苔
- 何郎去って自り 好詠無し
- 東風愁寂 幾回か開く
- ばいか<こうけい>
- けいしただまさに ようだいにあるべし
- たれかこうなんにむかって しょしょにうえたる
- ゆきみちてさんちゅう こうしふし
- つきあきらかにしてりんか びじんきたる
- かんはよるそえい しょうしょうのたけ
- はるはおおうざんこう ばくばくのこけ
- かろうさってより こうえいなし
- とうふうしゅうせき いくかいかひらく
字解
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- 瓊 姿
- 玉のように美しい姿 ここでは梅を指す
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- 瑤 臺
- 仙人の住む高殿
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- 高士臥
- 後漢の時代に袁安(えんあん)という人が大雪の日に 人々が食物を探しに出かけたが 彼だけは人の邪魔をしてはいけないと家で寝ていた故事による語で高潔な人格者をいう
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- 美人來
- 美人が来たかと疑われる ここでは梅
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- 疎 影
- まばらな影 ここでは梅の枝
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- 蕭 蕭
- さやさやとそよぐさま
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- 漠 漠
- 苔が一面につらなっているさま
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- 何 郎
- 何遜(かそん)のこと 南朝梁の鄙(たん)の人で梅を好んだ 「郎」は男子 青年わかもの
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- 東 風
- 春の風
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- 愁 寂
- かなしくさびしい
意解
玉のように美しい梅の姿は、仙人の住む高殿にあるのがふさわしいのに、誰が江南の処どころに植えたのであろう。
雪が満ちた山中に高潔な人格者が寝ているように、また月の明るい林下に美人が来たかと疑われる。
寒さの中、梅の疎(まば)らな影によりそうのはさやさやとそよぐ竹、春には梅の残り香がびっしりとしきつめられた苔を掩いかくしている。
何遜が去ってしまってからは梅を詠じた良い詩はなく、春の風が吹くたびに、かなしくさびしく幾度咲いてきたことであろう。
備考
この詩の構造は平起こり七言律詩の形であって、上平声十灰(かい)韻の臺、栽、來、苔、開の字が使われている。
尾聯 | 頸聯 | 頷聯 | 首聯 |
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作者略伝
高 啓 1336-1374
名は啓(けい)、字は李迪(りてき)、江蘇省長州(蘇州市)の人、元末期の惠宗至元(けいそうしげん)2年の生まれ、幼にして頴敏(えいびん)、文武に優(すぐ)れ、詩文に巧みで史学に深かった。呉淞の青丘に住み、青丘子(せいきゅうし)と号す。元朝に抵抗して蘇州に政権を樹立した張士誠の文学集団に出入した。官は戸部(こぶ)侍郎に就(つ)くも辞(や)めて自活、のち罪に連座して処刑される。時に39歳、明(みん)初期最大の詩人で呉中の四傑(楊基=ようき、張羽=ちょうう、徐賁=じょひ)に数えられる。