漢詩紹介

読み方
- 山園小梅<林逋>
- 衆芳搖落して 獨り暄妍
- 風情を占め盡くして 小園に向こう
- 疎影横斜 水清淺
- 暗香浮動 月黄昏
- 霜禽下らんと欲して 先ず眼を偸み
- 粉蝶如し知らば 合に魂を斷つべし
- 幸いに微吟の 相狎るべき有り
- 須いず檀板と 金尊を共にするを
- さんえんしょうばい<りんぽ>
- しゅうほうようらくして ひとりけんけん
- ふうじょうをしめつくして しょうえんにむこう
- そえいおうしゃ みずせいせん
- あんこうふどう つきこうこん
- そうきんくだらんとほっして まずめをぬすみ
- ふんちょうもししらば まさにこんをたつべし
- さいわいにびぎんの あいなるべきあり
- もちいずだんぱんと きんそんをともにするを
字解
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- 衆 芳
- 多くのかぐわしい花
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- 暄 妍
- あたたかくうつくしい
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- 横 斜
- 斜めにのびた枝
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- 暗 香
- どこからともなく漂ってくる香り
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- 霜 禽
- 霜がれどきの鳥 白い鳥
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- 粉 蝶
- 白い蝶
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- 偸 眼
- ぬすみ眼でみる
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- 斷 魂
- びっくりする
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- 檀 板
- 楽器 栴檀(せんだん)の木で作り歌の調子をとる板
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- 金 尊
- 黄金の酒樽 りっぱな酒樽
意解
ほかの多くのかぐわしい花がゆれ落ちて枯れ枝となっている時に、あたたかく美しい梅の花だけがこの小園で風流なよいおもむきを独占している。
疎らな枝は清い流れの水に斜めに影を映し、ほのかな香りが月の昇るたそがれ時にどこからともなく漂ってくる。
霜がれどきの鳥は、梅の枝に下(くだ)ろうとして、定めかねてあたりをぬすみ目で見まわし、白い蝶も今、もし美しい梅の花のあることを知ったならばおそらくびっくりすることであろう。
幸いにひそかに詩を吟ずる私の声がこの花とよくうちとけ合うから、何も拍子をとる木をならして調子をとったり、黄金の酒樽を用意する必要はないのである。
備考
林逋は杭州西湖の孤山に隠棲し、梅300株を植え梅を妻とし鶴を子とする隠士の生活をしていた。
この詩は自分の庭園を愛し山園と称して作る。この詩の構造は、平起こり七言律詩の形であって、下平声一先(せん)韻の妍と、上平声十三元(げん)韻の園、昏、魂、尊の字が通韻して使われている。
第三句と第七句は二六同になっていない。
尾聯 | 頸聯 | 頷聯 | 首聯 |
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作者略伝
林 逋 967-1028
北宋の詩人。字は君復(くんぷく)。錢塘(せんとう=浙江省杭州)の人。若い時から江淮(こうわい)地方を放浪するように遊行していた。西湖の孤山に隠棲すること20年。生涯官に仕えず、また妻帯しなかった。詩風は穏やかで淡泊である。詩は元来西湖の風景を詠じたものが多い。死後、和靖先生と諡(おくりな)された。「林和靖詩集」の著がある。