漢詩紹介

読み方
- 秋興<杜甫>
- 玉露凋傷す 楓樹の林
- 巫山巫峽 氣 蕭森
- 江間の波浪は 天を兼ねて湧き
- 塞上の風雲は 地に接して陰る
- 叢菊兩たび開く 他日の涙
- 孤舟一たび繋ぐ 故園の心
- 寒衣處處 刀尺を催し
- 白帝城は高うして 暮砧急なり
- しゅうきょう<とほ>
- ぎょくろちょうしょうす ふうじゅのはやし
- ふざんふきょう き しょうしん
- こうかんのはろうは てんをかねてわき
- さいじょうのふううんは ちにせっしてくもる
- そうぎくふたたびひらく たじつのなみだ
- こしゅうひとたびつなぐ こえんのこころ
- かんいしょしょ とうせきをうながし
- はくていじょうはたこうして ぼちんきゅうなり
字解
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- 秋 興
- 秋に物思うこと 秋の感興
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- 玉 露
- 玉のように美しい露
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- 凋 傷
- 凋(しぼ)み傷(いた)む 露がかえでの葉を凋めそこなうこと
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- 巫 山
- 夔州(きしゅう=現在の奉節県)の東にある山
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- 巫 峽
- 長江にある峡谷 三峡の一つ
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- 蕭 森
- しずかで物淋しいさま 身のひきしまるさま
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- 叢 菊
- むらがり咲く菊
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- 他日涙
- 過ぎ去った日々のことを思うて流す涙
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- 故園心
- ふるさとを恋いしたう心
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- 刀 尺
- たちばさみと物さし 転じて裁縫
意解
玉のような露がかえでの林を凋ませ傷めつけ、巫山巫峡一帯に秋のきびしい気がしんしんと満ちている。
長江の波浪は天にもとどくかのように湧きたち、城塞を蔽(おお)う風雲は地上すれすれに暗く低くたちこめている。
去年、菊をみて涙を流したが、二度目の秋、再びむらがり咲いた菊をみて過ぎ去った日の涙をさそう。また一そうの小舟を岸につないでいるが、この小舟によせて望郷の心も一すじにつないでいるのである。
秋も深まり冬着のしたくにあちこちで裁縫の仕事を促すように、白帝城の高くそびえるあたりでは夕ぐれの砧(きぬた)の音が忙しげに聞こえてくる。
備考
杜甫は、765年成都を去り、長江を下って夔州(きしゅう=現在の奉節県)にとどまった。同年の秋「秋興八首」を作りその第一首である。「唐詩選」に所収されている。
この詩の構造は仄起こり七言律詩の形であって、下平声十二侵(しん)韻の林、森、陰、心、砧の字が使われている。
尾聯 | 頸聯 | 頷聯 | 首聯 |
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作者略伝
杜 甫 712-770
盛唐の詩人で李白と並び称せられ、中国詩史の上での偉大な詩人である。字は子美(しび)。少陵(しょうりょう)または杜陵と号す。洛陽に近い鞏県(きょうけん)の生まれ、7歳より詩を作る。各地を放浪し生活は窮乏を極め、安禄山の乱に賊軍に捕らわれる。律詩に巧みで名作が多い。湖南省潭州(たんしゅう)から岳州に向かう船の中で没す。年59。李白の詩仙に対して、杜甫は詩聖と呼ばれる。