漢詩紹介

読み方

  • 草<白樂天>
  • 離離たり 原上の草
  • 一歳に 一たび枯榮す
  • 野火 燒けども 盡きず
  • 春風 吹いて 又生ず
  • 遠芳 古道を侵し
  • 晴翠 荒城に接す
  • 又王孫の 去るを送れば
  • 萋萋として 別情滿つ
  • くさ<はくらくてん>
  • りりたり げんじょうのくさ
  • いっさいに ひとたびこえいす
  • やか やけども つきず
  • しゅんぷう ふいて またしょうず
  • えんぽう こどうをおかし
  • せいすい こうじょうにせっす
  • またおうそんの さるをおくれば
  • せいせいとして べつじょうみつ

字解

  • 離 離
    草がつやつや生い繁っているさま ならび連っているさま
  • 一 歳
    1年
  • 枯 榮
    枯れたり繁ったり
  • 野 火
    野原で枯草を燃やす火 のび
  • 遠 芳
    遠くにつづく草の香り
  • 晴 翠
    晴れた草原の緑色
  • 荒 城
    荒れ果てた城壁
  • 王 孫
    王者の子孫 貴公子
  • 萋 萋
    草や木のしげっているさま
  • 別 情
    離別の情

意解

 つやつやと生い繁っている野原の草は、1年に1度枯れたり、繁ったりしている。
 野原で枯草を燃やしても、その根は尽きることがなく、春風の吹くころにはまた芽を出してくる。
 遠くにつづく草の香りは、古い道にまでただよい、晴れた日の草の緑色は、荒れはてた城壁に連なっている。
 またも王者の子孫が旅立つのを送るのであるが、草の生い茂る中に、離別の悲しみの情が胸一ぱいあふれてくるのである。

備考

 この詩は787年白樂天16歳の作とされ「唐詩三百首」に所収されている。「長慶集」には「賦得古原草送別」となっており、草という詠物体に送別の意をからめた詩であり、本会では「草」と簡略にした。
詩の構造は平起こり五言律詩の形であって、下平声八庚(こう)韻の榮、生、城、情の字が使われている。第三句は二四不同になっていない。

尾聯 頸聯 頷聯 首聯

作者略伝

白樂天 772-846

 中唐の大詩人。名は居易(きょい)、字は樂天、号は香山居士(こうざんこじ)。陝西(せんせい)省渭南(いなん)の人、太原(たいげん)の人(山西省)ともいう。家は代々官吏。早くから詩を作り、16歳「春草の詩」17歳「王昭君」の作あり。貞元(ていげん)16年(800)進士。元稹(げんしん)と親交あり。江西省九江の司馬に左遷されたこともあるが、ほぼ中央の官にあり、刑部尚書(ぎょうぶしょうしょ)にて没す。年75。「長恨歌」(ちょうごんか)「琵琶行」(びわこう)の大作あり。「白氏長慶集」(はくしちょうけいしゅう)「白氏文集」(はくしもんじゅう)など我が国にも伝わり、平安文学に感化影響を与えた。