漢詩紹介

読み方
- 感懷<劉長卿>
- 秋風落葉 正に悲しむに堪えたり
- 黄菊の殘花 誰をか待たんと欲す
- 水近うして偏に 寒氣の早きに逢い
- 山深うして長えに 日光の遲きを見る
- 愁中命を卜して 周易を看
- 夢裏魂を招いて 楚詞を誦す
- 自ら笑う湘浦の 雁に如かざるを
- 飛び來るは却って是 北に歸るの時
- かんかい<りゅうちょうけい>
- しゅうふうらくよう まさにかなしむにたえたり
- こうぎくのざんか たれをかまたんとほっす
- みずちこうしてひとえに かんきのはやきにあい
- やまふこうしてとこしえに にっこうのおそきをみる
- しゅうちゅうめいをぼくして しゅうえきをみ
- むりこんをまねいて そしをしょうす
- みずからわろうしょうほの がんにしかざるを
- とびきたるはかえってこれ きたにかえるのとき
字解
-
- 寒 氣
- 寒いこと 冬の寒さ
-
- 長
- いつまでも変わらないさま 常に
-
- 愁 中
- うれえかなしむとき 愁裏
-
- 卜 命
- 運命を占う
-
- 周 易
- 易経 五経(ごきょう)の一つ (易経=えききょう・書経=しょきょう・詩経=しきょう・春秋=しゅんじゅう・礼記=らいき)
-
- 楚 詞
- 「楚辞」のこと 楚の屈原の長編叙情詩「離騒」で有名で その門人や後人の作品を集めたもの 「詩経」が古代の北方文学を伝えたものに対して「楚辞」は南方文学を伝えたもの
-
- 湘 浦
- 湘江
意解
秋風に散ってゆく木々の葉を見ていると、まさに耐えがたい悲しみを感じる。散り残っている黄菊の花は、いったい誰を待っているのだろうか。
またここは、水辺に近いので一層寒気が早くおとずれ、山中の深い所なのでいつも日の射(さ)してくるのが遅い。
愁に沈みながら、自分の運命を占ってみようと周易の書を読んだり、夢の中でも屈原の魂を招き寄せようと楚辞を読むのである。
自分はあの湘江の岸辺にいる雁にも及ばないと笑ってしまう。なぜかというとあの雁たちは、ここまで飛んできてもまた北に帰る時があるではないか。私はいつ帰れるかわからない。
備考
無実の罪で姑蘇の獄に繋がれていた時、秋にふとわき起こった思いを詠じた詩である。
この詩の構造は平起こり七言律詩の形であって、上平声四支(し)韻の悲、誰、遲、詞、時の字が使われている。
尾聯 | 頸聯 | 頷聯 | 首聯 |
---|---|---|---|
作者略伝
劉長卿 710?-785?
中唐の詩人。河間(かかん=今の河北省、一説に安徽=あんき=省宣城=せんじょう=県)の人。開元21年(733)の進士。諸官を歴任したが、剛直な性格で権貴をもはばからなかったので讒言に遭い貶謫された。のちは湖北省随州の刺史となりこの地で没した。「劉随州集」十巻がある。