漢詩紹介

読み方
- 西塞山懷古<劉禹錫>
- 西晉の樓船 益州より下り
- 金陵の王氣 漠然として収まる
- 千尋の鐡鎖 江底に沈み
- 一片の降旗 石頭より出ず
- 人世幾回か 往事を傷む
- 山形舊に依って 寒流に枕す
- 今四海を 家と爲すの日に逢い
- 故壘は蕭蕭たり 蘆荻の秋
- せいさいざんかいこ<りゅううしゃく>
- せいしんのろうせん えきしゅうよりくだり
- きんりょうのおうき ばくぜんとしておさまる
- せんじんのてっさ こうていにしずみ
- いっぺんのこうき せきとうよりいず
- じんせいいくかいか おうじをいたむ
- さんけいきゅうによって かんりゅうにまくらす
- いましかいを いえとなすのひにあい
- こるいはしょうしょうたり ろてきのあき
字解
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- 西塞山
- 湖北省武昌の東にあり長江に臨む
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- 西 晉
- 三国時代の末(265-316) 東晉までの国名
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- 益 洲
- 今の四川省成都
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- 金 陵
- 江蘇省江寧府南京のこと
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- 王 氣
- 王者を出す兆しのある感じ 雰囲気
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- 千 尋
- 山などの非常に高いこと 谷などの非常に深いこと ここでは長い意
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- 降 旗
- 旗を降ろすこと 降参したときの合図の白旗
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- 石 頭
- 金陵の西にある城
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- 依 舊
- 昔からのありさまで変わらない
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- 四 海
- 四方の海 ここでは天下
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- 故 壘
- 古いとりで 昔のとりで
意解
望楼のそびえる西晉の軍船が益州より長江を下っておしよせて来て、金陵を覆っていて王気はぼんやりとうすれ消え失せてしまった。(呉は王濬=おうしゅん=の水軍を防ごうとして)長江に長い鉄の鎖をはりわたしたが、切られて流れの底に沈んでしまい、降伏を告げる一振りの旗が石頭城にかかげられたのであった。人世には幾たびとなく心を傷めた昔の出来事があったが西塞山の形だけは昔と変わらず、寒々とした流れにその影をうつしている。今や天下を一つとする世にあって、時は秋、かつてのとりでのあとには、蘆(あし)や荻(おぎ)がものさびしく茂るばかりである。
備考
この詩は前半で晋と呉との興亡の史実を詠じ、後半では唐朝太平の世を思い、変わらぬ西塞山の山容、秋風に懐古感傷の情を詠じている。「唐詩三百首」に所収されている。詩の構造は仄起こり七言律詩の形であって、下平声十一尤(ゆう)韻の州、収、頭、流、秋の字が使われている。
尾聯 | 頸聯 | 頷聯 | 首聯 |
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作者略伝
劉禹錫 772-842
中唐の詩人。大暦7年河北省定県(ていけん)に生まれる。字は夢得(ぼうとく)、号は禹錫。幼少より文才あり、貞元(ていげん)9年(793)の進士、官は検校礼部尚書(けんこうれいぶしょうしょ)をもって終る。柳宗元・白樂天と親交あり。「劉賓客(ひんかく)文集」他あり。年71で没す。