漢詩紹介

読み方

  •  新秋楽天に寄す  <劉禹錫>
  • 月露 光彩を発す
  • 此の時 方に秋を見る
  • 夜涼しくして 金気応じ
  • 天静かにして 火星流る
  • 蛩響きて 偏に井に依り
  • 蛍飛びて 直ちに楼を過ぐ
  • 相知尽く 白首なり
  • 清景 復た 追遊せんや
  •  しんしゅうらくてんによす  <りゅううしゃく>
  • げつろ こうさいをはっす
  • このとき まさにあきをみる
  • よるすずしくして きんきおうじ
  • てんしずかにして かせいながる
  • こおろぎなきて ひとえにいにより
  • ほたるとびて ただちにろうをすぐ
  • そうちことごとく はくしゅなり
  • せいけい また ついゆうせんや

語句の意味

  • 楽 天
    作者の友人 白居易
  • 月 露
    月夜の露
  • 光 彩
    あでやかで美しい光 美しい輝き
  • 金 気
    秋の気配 五行思想では万物を生成する元素を木火土金水と考え秋は金に配された
  • 火 星
    火辰と同じ星の名 さそり座のアルファ星 アンタレス
  •  蛩
    秋に悲しげに鳴くコオロギ
  • 相 知
    知り合い 知人 友人
  • 白 首
    白髪の老人
  • 清 景
    すみきってさわやかな景色
  • 追 遊
    前に行ったことのある所へもう一度旅行する

詩の意味

 月の光を浴びた夜露が美しく輝きを増し、この時はじめて秋の訪れを見た。

 夜になると涼しく秋の気配が深まり、夜空は静かでアンタレス星が西に傾く。

 コオロギは井戸のほとりに集まり鳴いて、蛍は飛んで高殿を過ぎていく。

 あなたも私もすっかり歳をとってしまったことだし、この清らかな秋景色をもう一度ともに楽しむことができるだろうか、いやできないだろう。

出典

  「三体詩」下 (南宋)周弼(しゅうひつ)編

 三体とは七言絶句、五言律詩、七言律詩の詩体をいう。盛唐を第一とする「唐詩選」に対し「三体詩」は中・晩唐を評価し多く採録している。

備考

 詩を人に託して送り届けるのが「寄」、直接手渡すのが「贈」である。詩は当時の士人(知識人=官僚層)の社会では相互の友好関係を確かめ合う際の不可欠の社交手段であった。

 劉禹錫と白居易「劉白」は「劉白唱和集」が編まれるほどに応酬(おうしゅう)唱歌が頻繁におこなわれた。この「新秋楽天に寄す」に対し、白居易の応酬は「夢得(ぼうとく)の早秋の夜に月に対して寄せらるるに酬(むく)ゆ」がある。また元槇と白居易を併称した「元白」の唱和詩に「元白唱酬集」がある。

鑑賞

 漢詩のテーマの一つに「悲秋(秋を悲しむ)」がある。一年の終わりを象徴する秋には、季節や時間の推移を悲しむことが多い。ここでは人生の終盤を迎え、昔のような友人との交遊もままならない境遇を嘆いている。

詩の形

 仄起こり五言律詩の形であって、下平声十一尤(ゆう)韻の秋、流、楼、遊の字が使われている。

尾聯 頸聯 頷聯 首聯

作者

劉禹錫  772~842

 中唐の政治家・詩人

 河北省定県の人。または彭城(ほうじょう=江蘇省徐州市)の人。字は夢得、禹錫は号。貞元9年(793)柳宗元と同時に進士に及第した。中央役人も勤めるが、進歩的性格のためか、作詩の趣旨が不快を与えたのか、たびたび長期にわたり左遷されている。最後は検校礼部尚書(礼楽、祭祀、教育などを司る役の名誉長官)で終わる。生年を同じくする白居易とも親交があり、ともに詩が巧みであったので「劉白」と称された。「劉賓客文集」などがある。享年71。