漢詩紹介

読み方

  • 子夜呉歌<李白>
  • 長安 一片の月
  • 萬戸 衣を擣つの聲
  • 秋風 吹いて盡きず
  • 總て是 玉關の情
  • 何れの日か 胡虜を平らげて
  • 良人 遠征を罷めん
  • しやごか<りはく>
  • ちょうあん いっぺんのつき
  • ばんこ ころもをうつのこえ
  • しゅうふう ふいてつきず
  • すべてこれ ぎょっかんのじょう
  • いずれのひか こりょをたいらげて
  • りょうじん えんせいをやめん

字解

  • 一片月
    ぽつんとある月
  • 擣衣聲
    砧(きぬた)を打つ音 秋になると冬の用意のために布をたたいてつや出しをする時の音
  • 玉關情
    玉門関に遠征している夫を思う妻の情 玉門関は長安の北西3600里(約2000キロメートル)の所にあって今の甘粛省敦煌の北西に位置する 当時異民族を討伐するために男たちは遠征していた
  • 胡 虜
    北方の異民族
  • 良 人
  • 罷遠征
    遠征をやめて帰ってくるのであろうか

意解

 長安の夜空にはぽつんと一つの月がかかっており、あちこちの家々から砧を打つ音が聞こえてくる。
 また秋風は絶えまなく吹き続け、さらにこれらは(月光・砧の音・秋の風)すべて玉門関に遠征している夫を思い慕う情をかきたてる。
 いったい、いつになったら夫は異民族を平定して、遠い戦地から帰ってくるのであろうか。

備考

 「子夜呉歌」は楽府題で、東晋のころ子夜という女性が歌い始めた民謡といわれる。東晋の都は呉にあ ったのでこの地方の歌を呉歌という。李白の「子夜呉歌」詩は春夏秋冬の四首連作で、この詩はその第三首目秋の歌であり「唐詩三百首」に 所収されている。
 詩の構造は五言古詩の形であって、下平声八庚(こう)韻の聲、情、征の字が使われている。

作者略伝

李白 701-762

 盛唐の詩人。杜甫(とほ)と並び称される。蜀(しょく)の錦州彰明県(きんしゅうしょうめいけん)青蓮郷(せいれんきょう)の人で青蓮居士(せいれんこじ)と号した。幼にして俊才、剣術を習い任侠の徒と交わる。長じて中国各地を遍歴し、42歳より44歳まで玄宗(げんそう)皇帝の側近にあり、のち再び各地を転々とし多くの詩をのこす。安禄山(あんろくざん)の乱に遭遇して、罪を得たがのち赦される。安徽省馬鞍山の地で没す。年62。