漢詩紹介

読み方
- 烏夜啼<李白>
- 黄雲城邊 烏棲まんと欲す
- 歸飛啞啞として 枝上に啼く
- 機中錦を織る 秦川の女
- 碧紗煙の如く 窗を隔てて語る
- 梭を停めて悵然 遠人を憶う
- 獨り空房に宿して 涙雨の如し
- うやてい<りはく>
- こううんじょうへん からすすまんとほっす
- きひああとして しじょうになく
- きちゅうにしきをおる しんせんのじょ
- へきさけむりのごとく まどをへだててかたる
- おさをとどめてちょうぜん えんじんをおもう
- ひとりくうぼうにしゅくして なみだあめのごとし
字解
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- 烏夜啼
- 楽府題の一つ 夫や恋人を思う女性の情を歌ったもので烏夜啼とはもと宋の臨川の王義慶(ぎけい=403-444)のつくったものといわれる(旧唐書) 李白の作では烏が夕方ねぐらに帰る時鳴くとされるのできわめて自然である
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- 黄 雲
- どんよりと黄ばんだ雲 たそがれ時の雲
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- 啞 啞
- 烏の鳴き声
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- 秦川女
- 秦の地方の女 ここでは「普書」列女伝にみえる竇滔(とうとう)の妻蘇恵(そけい=字は若蘭) 竇滔は今の甘粛省天水県の長官であったが罪を犯して流沙というところに左遷され長い間音信を断った 夫の身を思う蘇恵は縦横八寸の布に840字を織り込みぐるぐる回すと200余の詩となり(回文詩)竇滔はその巧みさに心打たれ妻を呼び寄せたとある
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- 碧 紗
- 青いうすぎぬ
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- 梭
- 横糸を管に通していれる機織りの道具
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- 悵 然
- 憂い嘆くさま
意解
夕暮れの黄色い雲がたちこめる城壁のあたり、烏がねぐらにつこうと飛び帰ってきてカアカアと枝の上で鳴いている。
部屋の中で機織りをしている秦の女がいる。(秦川の妻をまねて回文詩でも織っているのだろうか)青いうす絹のカーテンが透けて煙のように見える窓ごしに何か独り言を言っている。
急に梭を動かす手を止めて、悲しそうに遠くにいる夫のことを思い出す。やがて独り人気のない部屋に臥すとさめざめと涙が雨のようにこぼれてくるのであった。
備考
夫に別れて暮らしている気の毒な女性の気持ちを歌ったものであり、「唐詩選」に所収されている。
詩の構造は七言古詩の形であって韻は
上平声八齊(せい)韻の棲、啼
上声六語(ご)韻の女、語
上声七麌(ぐ)韻の雨
の字が使われている。
作者略伝
李白 701-762
盛唐の詩人。杜甫(とほ)と並び称される。蜀(しょく)の錦州彰明県(きんしゅうしょうめいけん)青蓮郷(せいれんきょう)の人で青蓮居士(せいれんこじ)と号した。幼にして俊才、剣術を習い任侠の徒と交わる。長じて中国各地を遍歴し、42歳より44歳まで玄宗(げんそう)皇帝の側近にあり、のち再び各地を転々とし多くの詩をのこす。安禄山(あんろくざん)の乱に遭遇して、罪を得たがのち赦される。安徽省馬鞍山の地で没す。年62。