漢詩紹介

読み方
- 代悲白頭翁(3-1)<劉廷芝>
- 洛陽城東 桃李の花
- 飛び來り飛び去り 誰が家に落つ
- 洛陽の女兒は 顔色を惜しみ
- 行きて落花に逢うて 長く嘆息す
- 今年花落ち 顔色改まる
- 明年花開いて 復誰か在る
- 已に見る松柏の摧けて 薪と爲るを
- 更に聞く桑田の變じて 海と成るを
- だいひはくとうおう<りゅうていし>
- らくようじょうとう とうりのはな
- とびきたりとびさり たがいえにおつ
- らくようのじょじは がんしょくをおしみ
- ゆきてらっかにおうて ながくたんそくす
- こんねんはなおち がんしょくあらたまる
- みょうねんはなひらいて またたれかある
- すでにみるしょうはくのくだけて たきぎとなるを
- さらにきくそうでんのへんじて うみとなるを
字解
-
- 洛 陽
- 唐代では長安を首都とし洛陽を副都としていた 東都とも呼ぶ
-
- 女 兒
- うら若い娘 日本語の女児とは異なる
-
- 惜顔色
- 容貌の衰えを悲しむ 気にかける
-
- 松柏摧爲薪
- 世の中の転変のはげしさをいう 「文選(もんぜん)」の「古詩十九首」に「古墓は犂(す)かれて田と為り松柏は摧(くだ)かれて薪と為る」とあるに基づく
-
- 桑田變成海
- 世の中の移り変りのはげしいたとえ 「桑海の変」ともいう 晋の葛洪(かっこう)の「神仙殿」に麻姑(まこ)という仙女が王子平(おうしへい)という仙人と宴会をしたときに「この前お会いしてから東の海が桑畑に変わりまた海となったのを三度も見た」と語った話に基づく
意解
洛陽の町の東郊に咲き誇る桃や李(すもも)の花は、春の風にあおられ飛んでくるかと思えば飛んでゆき誰の家に落ちてゆくのだろう。
洛陽の娘達は若き年の楽しみに耽(ふけ)っていても、自分の容貌の衰えてゆくのを気にかけ、道すがら散りゆく花にあうと深く溜息(ためいき)をつくのである。
今年花が散って、春がゆくと共に人の容色も衰え改まり、明年花が咲いた時いったい誰が健在でそれを見られようか。
永遠のものとして墓地に植えられた松や柏も長い歳月がたつと切り倒されて薪とされるのを見た。また青々と茂った桑畑もいつかは海に変ってしまうという話も聞いたことがある。
備考
この詩の題は「代白頭吟」とするものもある。「公子行」とともに「唐詩選」に所収されている。
詩の構造は七言古詩の形で韻は次の通りである。
第1・2句 下平声六麻(ま)韻の花、家
第3・4句 入声十三職(しょく)韻の色、息
第5~8句 上声十賄(かい)韻の改、在、海
第9~14句 上平声一東(とう)韻の東、風、同、翁
第15~22句 下平声一先(せん)韻の憐、年、前、仙、邊
第23~26句 上平声四支(し)韻の時、絲、悲
の字が使われている。古詩のため平仄は論じない。
作者略伝
劉廷芝 651-678?
初唐の詩人。名は希夷(きい)、字は廷芝。臨汝(りんじょ=河南省汝州県)の人とも穎州(えいしゅう=安徽省阜陽市)の人ともいう。上元2年(675)宋之問(そうしもん)や沈栓期(しんせんき)と同時に進士に及第したが素行悪く終生官位につけなかった。美男子で琵琶の名手であったといわれる。