漢詩紹介

読み方

  • 代悲白頭翁(3-3)<劉廷芝>
  • 公子王孫 芳樹の下
  • 清歌妙舞 落花の前
  • 光祿池臺 錦繍を開き
  • 將軍樓閣 神仙を畫く
  • 一朝病に臥せば 相識る無し
  • 三春の行樂 誰が邊にか在る
  • 宛轉たる蛾眉の 能く幾時ぞ
  • 須臾にして鶴髪 亂れて絲の如し
  • 但看る古來 歌舞の地
  • 惟 黄昏鳥雀の 悲しむ有り
  • だいひはくとうおう<りゅうていし>
  • こうしおうそん ほうじゅのもと
  • せいかみょうぶ らっかのまえ
  • こうろくちだい きんしゅうをひらき
  • しょうぐんろうかく しんせんをえがく
  • いっちょうやまいにふせば あいしるなし
  • さんしゅんのこうらく たがへんにかある
  • えんてんたるがびの よくいくときぞ
  • しゅゆにしてかくはつ みだれていとのごとし
  • ただみるこらい かぶのち
  • ただ こうこんちょうじゃくの かなしむあり

字解

  • 公子王孫
    王公貴族の子弟
  • 光祿池臺
    前漢の光祿大夫(こうろくたいふ)王根が邸内の池台に華麗な建物をたてたという故事
  • 將軍樓閣
    後漢の大将軍梁冀(りょうき)が広大な建物をたて 不老不死の神仙図を描かせた故事
  • 三 春
    陰暦の春3ヵ月 1月・2月・3月
  • 宛 轉
    まゆが美しく曲がるさま
  • 蛾 眉
    美人のまゆのたとえ
  • 須 臾
    たちまち すぐに

意解

 その頃は貴公子や王孫達と花香る樹々の下に遊び、落花の前で清らかな歌や妙なる舞を楽しんだのである。
錦の幕を張った漢の光祿大夫の大庭園や、四方の壁に不老長寿の神仙を描いた後漢の大将軍梁冀の楼閣に遊んだこともあった。
 しかし、一度病の床につくと、つきあってくれる友人知己もなく、あの春3ヵ月の行楽もどこへいってしまったやら。(人の老いやすく人情のはかなさはこのようなものである)
 思えば美人もいつまで美しくいられようか。たちまち乱れた糸のような白髪頭になってしまうのである。
 ご覧なさい。昔歌や舞を楽しんだ場所も、今はただ夕暮れどきに鳥や雀が悲しく鳴いているばかりである。

備考

 この詩の題は「代白頭吟」とするものもある。「公子行」とともに「唐詩選」に所収されている。
詩の構造は七言古詩の形で韻は次の通りである。
  第1・2句   下平声六麻(ま)韻の花、家
  第3・4句   入声十三職(しょく)韻の色、息
  第5~8句   上声十賄(かい)韻の改、在、海
  第9~14句  上平声一東(とう)韻の東、風、同、翁
  第15~22句 下平声一先(せん)韻の憐、年、前、仙、邊
  第23~26句 上平声四支(し)韻の時、絲、悲
 の字が使われている。古詩のため平仄は論じない。

作者略伝

劉廷芝 651-678?

 初唐の詩人。名は希夷(きい)、字は廷芝。臨汝(りんじょ=河南省汝州県)の人とも穎州(えいしゅう=安徽省阜陽市)の人ともいう。上元2年(675)宋之問(そうしもん)や沈栓期(しんせんき)と同時に進士に及第したが素行悪く終生官位につけなかった。美男子で琵琶の名手であったといわれる。