漢詩紹介

読み方
- 張五弟に答う<王維>
- 終南 茅屋有り
- 前は 終南山に對す
- 終年客無く 長く關を閉ざし
- 終日心無くして 長く自ずから閒なり
- 妨げず酒を飲み 復た釣を垂るるを
- 君但だ能く来らば 相往還せよ
- ちょうごていにこたう<おうい>
- しゅうなん ぼうおくあり
- まえは しゅうなんざんにたいす
- しゅうねんきゃくなく ながくかんをとざし
- しゅうじつこころなくして ながくおのずからかんなり
- さまたげずさけをのみ またつりをたるるを
- きみただよくきたらば あいおうかんせよ
字解
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- 終 南
- 長安の南方にそびえる山 この山の東南の裾の方に作者の輞川荘(もうせんそう)があった
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- 茅 屋
- あばら家 王維の別荘をさす
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- 閉 關
- 門に鍵をかける
意解
終南山に一軒のあばら家がある。その家の前は終南山と向かいあっている。ここでは一年中客が一人も来ないので門はいつもしめたきりだ。一日中何も心をわずらわすものがないから、いつでものどかなものだよ。酒を飲もうと、釣糸を垂れようと思うまま、何のさしつかえもない。君もここへ来られるならば、来てつきあいたまえ。
張五弟は張いん(ちょういん)という人物。作者の友人で、詩・画・書が上手だったというから、作者と同様な才能を持った人であったろう。また占いも上手で、刑部員外郎(ぎょうぶいんがいろう)にまで昇進したという。五は一族中で尊卑属また年令の関係によって定めた順序の列を示す数字。弟は自分より年下の友人を呼ぶときの言葉。川の別荘に引きこもっている作者にあてて張いん(ちょういん)が詩もしくは手紙を送った。この詩はそれに対する返事で、相手を山中の閑居へさそおうとするもの。
備考
この詩の構造は七言古詩の形であって、上平声十五刪(さん)韻の山、關、閒、還の字が使われている。前四句に終字を用いた特徴のある作り方である。
作者略伝
王維 701-761
盛唐の詩人。字は摩詰(まきつ)、山西省太原の人。開元19年(731)の進士。弟縉(しん)と共に幼少より俊才、官は尚書右丞(しょうしょゆうじょう)に至る。55歳の時安禄山(あんろくざん)の乱に遭遇し、賊に捕えられ偽官の罪を得たがのち赦される。晩年川に隠棲し、兄弟共に仏門に帰依(きえ)する。また画の名手にして南宗画(なんしゅうが=文人画)の祖となる。