漢詩紹介

読み方
- 人の雨後竹を玩ずに酬ゆ<薛濤>
- 南天 春雨の時
- 那んぞ 雪霜の 姿を鑒わん
- 衆類 亦て云茂するに
- 虚心 能く自ら持す
- 多く 晉賢の 醉を留め
- 早に 舜妃の 悲しみに伴う
- 晩歳 君能く賞せよ
- 蒼蒼 勁節の奇なるを
- ひとのうごたけをめずにむくゆ<せつとう>
- なんてん しゅんうのとき
- いかんぞ せっそうの すがたをおもわん
- しゅうるい すべてうんもするに
- きょしん よくみずからじす
- おおく しんけんの よいをとどめ
- つとに しゅんぴの かなしみにとものう
- ばんさい きみよくしょうせよ
- そうそう けいせつのきなるを
字解
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- 鑒
- 鑑に同じ みきわめる 考える
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- 衆 類
- あらゆる植物
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- 云 茂
- 云は物の多く盛んなさま 盛んに繁る
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- 晉賢醉
- 中国晋代に世俗を避け竹林に集まり酒を飲み清談にふけったといわれる7人を「竹林の七賢」といった
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- 舜妃悲
- 帝王堯(ぎょう)のふたりの娘が舜の妃となっていたが 舜が死んだ巡行先に到り悲しんで泣いた涙が湘水(しょうすい)のほとりの竹に斑紋をつけたという伝説
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- 晩 歳
- 歳暮 すなわち冬になったらの意
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- 勁 節
- 強い節 節があって強く積雪などに折れないかたい節操にも掛けている
意解
南の空から春雨(はるさめ)が落ちてくる温暖なときには、竹が冬のはげしい雪や霜にたえている強い姿は、とても想像できません。
あらゆる植物が盛んに繁ってその旺盛な活力を誇っているときに、竹だけはあの中味を空にして満たさず、なんの私心もなく、自分の生き方を守っています。
竹林は晋の賢者たちが、そのなかでこのんで酒もりをしたという風流な伝説を思い出させますし、また、舜帝のふたりの妃が、帝の死を悲しんで泣いたとき、その涙の跡が湘水のほとりの竹の斑紋となったという、語り伝えもあります。
竹には、なかなか味のある話がありますが、あなたに愛していただきたいのは、年の暮れになって、ほかの植物がみなしぼんだりしているのをよそに、青々とした色を見せて雪霜のなかに強く生きている、そのような竹の姿です。いかがでしょう、そうお思いになりませんか。
備考
この詩の構造は平起こり五言律詩の形であって、上平声四支(し)韻の時、姿、持、悲、奇の字が使われている。 なお、現存の薛濤の詩のうち、大半が絶句で五言律詩はこれ一首だけである。
作者略伝
薛 濤 768?-831?
中唐の女流詩人。字は洪度または宏度。長安の良家に生まれたが、父が地方官として赴任するのに伴われて、蜀(四川省成都)へゆき、そこで父を失い妓女となった。節度使韋皐(いこう)に愛され、召されて宴会で詩をつくり、女校書(じょこうしょ)と称された。元槇、白居易らと交わる。晩年は浣花渓のほとりに住み、薛濤箋(せつとうせん=詩などを書きしるす小形で深紅色の優雅な紙片)を創製した。