漢詩紹介

読み方
- 鄰の女に贈る<魚玄機>
- 日を羞じて 羅袖に遮り
- 春を愁いて 起妝に懶し
- 無價の寶を 求むるは易きも
- 有心の郎を 得るは難し
- 枕上 潛かに涙を垂れ
- 花閒 暗に腸を斷つ
- 自ら能く 宋玉を窺う
- 何ぞ必ずしも 王昌を恨まん
- となりのおんなにおくる<ぎょげんき>
- ひをはじて らしゅうにさえぎり
- はるをうれいて きしょうにものうし
- むかのたからを もとむるはやすきも
- ゆうしんのろうを うるはかたし
- ちんじょう ひそかになみだをたれ
- かかん あんにはらわたをたつ
- みずからよく そうぎょくをうかごう
- なんぞかならずしも おうしょうをうらまん
字解
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- 羅 袖
- うすものの袖
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- 起 妝
- 妝は粧に同じ 起きあがって化粧する
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- 無價寶
- 非常に高価な宝
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- 有心郎
- 本当の愛情をそそいでくれる男性
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- 宋 玉
- 楚の詩人宋玉は美男子だったので 隣の女がのぞき見したという ここでは李億をさしている
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- 王 昌
- 六朝(りくちょう)の梁の武帝の詩「河中の水の歌」に盧家に嫁した莫愁という美女が実家の隣の王という男に嫁げばよかったと後悔したとうたわれる 王昌とは一般に女の実家の隣にいた初恋の相手をいう
意解
お日さまに照らされるのが恥ずかしくて、うすものの袖でさえぎり、悲しい恋をうれい起きてお化粧をする気にもなれません。
どんな高価な宝物だって手に入れるのはたやすいこと、本当の愛をそそいでくれる人を見つけることの難しさに比べれば。
ひとり寝の寂しさに人知れず枕をぬらし、せっかくの春の花の中にいても心の中は悲しくて腸もちぎれんばかりです。
でも自分から好きな人のおそばへ行ったのだから、見捨てられた今でも他の人のところへ行けばよかったなんて思っていません。
備考
この詩は魚玄機の代表作の一つである。標題には別に「李億員外(りおくいんがい)に寄す」と題したものもある 。この詩の構造は五言律詩の形であって、下平声七陽(よう)韻の妝、郎、腸、昌の字が使われている。
作者略伝
魚玄機 844?-871?
唐末期の女流詩人。字は幼微(ようび)、また蕙蘭(けいらん)ともいう。長安の色街に生まれ、のち李億という高級官僚の側室になる。李億に捨てられて女道士(じょどうし)となるが召し使いを殺したかどで若くして刑死した。激越な詩風で唐代女流詩人中第一といわれた。温庭(おんていいん)、李郢(りえい)と交遊あり。森鴎外の小説「魚玄機」によって有名。詩集一巻あり。