漢詩紹介

吟者:浅図 鳳仙
2005年1月掲載
読み方
- 金州城<乃木希典>
- 山川草木 転荒涼
- 十里風腥し 新戦場
- 征馬前まず 人語らず
- 金州城外 斜陽に立つ
- きんしゅうじょう<のぎまれすけ>
- さんせんそうもく うたたこうりょう
- じゅうりかぜなまくざし しんせんじょう
- せいばすすまず ひとかたらず
- きんしゅうじょうがい しゃようにたつ
詩の意味
山も川も草も木も砲弾の跡が生々しく、見渡すかぎり荒れ果てた光景になっている。戦いがすんだ今もなお血生臭い風が吹いている。
私が乗る軍馬は進もうとせず、兵士もまた黙して語らない。夕陽が傾く金州城外にしばらく茫然とたたずんでいた。
鑑賞
金州城外の無惨な戦場の跡
本題は「金州城下の作」といいます。金州の南山は日露両軍が死闘をくりかえした激戦地で、山野は血で染まったのです。乃木将軍の長男勝典(かつすけ)もここで戦死する。将軍は南山に登り、山上より戦死兵の墓標が林立する地を望み、夕日をあびて万感の思いで茫然と立っていた。日本軍はここから南下して旅順を攻撃したのです。
語句の意味
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- 金州城
- 中国遼寧省遼東半島の南端 旅順港背後の要衝の地にして明治37年5月26日奥大将の第二軍が奮闘して占領した
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- 転
- いよいよ ますます
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- 荒 涼
- あれ果ててさびしい
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- 征 馬
- 軍馬
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- 斜 陽
- 夕日
詩の形
平起こり七言絶句の形であって、下平声七陽(よう)韻の涼、場、陽の字が使われている。
結句 | 転句 | 承句 | 起句 |
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作者
乃木希典 1849-1912
明治の陸軍軍人・漢詩人
山口県長州藩士の家に生まれる。少年時代から馬術・剣術・弓術・砲術さらに思想や詩歌を学び、武人としての教育を受けた。明治政府の樹立後に軍人となり、西南戦争に連隊長として参戦したが、西郷軍に軍旗を奪われる屈辱をなめた。日清戦争では旅団長として旅順を占領した。日露戦争では司令長官として日本軍の勝利に貢献した。戦後、政府の要職を歴任し、従二位に叙せられ、伯爵を授けられた。尊王の思いが厚く、大正元年9月13日明治天皇の大葬の日に静子夫人とともに殉死した。享年64歳。