漢詩紹介

CD①収録 吟者:南方快聖
2014年7月掲載

読み方

  • 舟中子規を聞く<城野静軒>
  • 八幡山崎 春暮れんと欲し
  • 杜鵑血に啼いて 落花流る
  • 一声は月に有り 一声は水
  • 声裏の離人 半夜の舟
  • しゅうちゅうしきをきく<きのせいけん>
  • やわたやまざき はるくれんとほっし
  • とけんちにないて らっかながる
  • いっせいはつきにあり いっせいはみず
  • せいりのりじん はんやのふね

詩の意味

 淀川を下り、八幡・山崎を通り過ぎれば春も終わろうとしている。どこかで杜鵑(ほととぎす)が血を吐くような声で鳴いており、花は川面に散って静かに流れている。
 その一声(ひとこえ)は月が鳴いたかと思われ、また一声は水の中から鳴いたかと思われる。真夜中の舟の中、旅の身にあってひとしお思いをこめてその声を聞いた。

鑑賞

暮春に旅人が聞くほととぎすの声

 京都から大阪へ下る舟の中、天王山をすぎる辺りで月夜に杜鵑の声がした。その鳴き声は哀しくせつなくて血を吐くように聞こえてくる。暮春・落花・静かさで去りゆく春を惜しむ心を、夜の杜鵑の声・舟中・半夜と並べて旅情をしみじみと感じさせます。

語句の意味

  • 子 規
    ほととぎす 杜鵑も同じ
  • 八 幡
    京都府八幡市
  • 山 崎
    京都府乙訓郡大山崎町・大阪府三島郡島本町山崎の一帯
  • 啼 血
    血を吐くような声で鳴く
  • 声 裏
    声のする中
  • 離 人
    旅人 ここでは作者
  • 半 夜
    夜半 真夜中

詩の形

 この詩は、起句二字目が平字であるが、全体の形式は仄起こり七言絶句の形であって下平声十一尤(ゆう)韻の流、舟が使われており、一句目は踏み落としとなっている。

結句 転句 承句 起句

作者

城野静軒 1800-1873
江戸後期の学者

 熊本県菊池郡に生まれる。その生涯は不明な点が多い。文武両道に秀で、書も詩も巧みであった。同時代の横井小楠と親交があり、「小楠堂詩草」に静軒と相唱和した詩がある。明治6年8月没す。享年74歳。