漢詩紹介

読み方
- 名槍日本号<松口月城>
- 美酒元来 吾が好む所
- 斗杯傾け尽くして 人驚倒
- 古謠一曲 芸城の中
- 呑み取る名槍 日本号
- めいそうにっぽんごう<まつぐちげつじょう>
- びしゅがんらい わがこのむところ
- とはいかたむけつくして ひときょうとう
- こよういっきょく げいじょうのうち
- のみとるめいそう にっぽんごう
詩の意味
(母里太兵衛=もりたへえ=は)酒はもともと好きな方であり、大杯に盛られた酒を一息に飲み干して並みいる人々を驚かせたのは、唯この槍がほしいためだけであった。
彼は広島城の中で今様の一節を歌い且つ舞い、豪快な飲みっぷりの褒美に約束どおりその槍を拝領して帰ったのである。
鑑賞
黒田節で有名な名槍日本号
芸州侯(広島藩主)福島正則は江戸初期の槍の名人です。彼が持つ槍は名高い「日本号」といいます。筑前(福岡県)黒田藩の家臣、母里太兵衛は藩命で正則におめにかかった際、大杯を勧められました。「その槍を戴けるなら」と応じ、飲み干したのです。彼の槍に対する思いはさておき、心意気の大きさ、行動の大胆さは並ではありません。その筑前武士の勇敢ぶりを、同じ筑前出身の作者が称えたのです。
語句の意味
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- 日本号
- 秀吉の朝鮮出兵(1597)の折 後の広島城主福島正則侯が使用したという名槍の名前 足利義政より織田信長に下賜され信長より豊臣秀吉が受領し更に福島正則が所蔵するに至った
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- 斗 杯
- 1斗入りの杯 多量の酒
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- 驚 倒
- すっかり驚かせる
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- 古 謡
- 筑前(福岡県)に古くからある今様
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- 芸 城
- 広島城
詩の形
七言古詩の形であって、仄韻で去声二十號(ごう)韻の好、倒、号の字が使われている。
結句 | 転句 | 承句 | 起句 |
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作者略伝
松口月城 1887-1981
明治から昭和の医師・吟詠家・漢詩人・書家
福岡市有田に生まれる。14歳で松口家の養子となる。18歳で医師の資格を得、世人を驚かせた秀才である。医業のかたわら漢詩・書・画の道にも優れ、多くの作品は今もなお「松口月城記念館」に展示されている。全国規模の詩吟連盟の役員を長く歴任され、昭和49年に吟詠普及振興に尽くした功績により文部大臣表彰を受けた。本会の顧問も長く務められた。享年95歳。