漢詩紹介

吟者:山口 華雋
2004年10月掲載

読み方

  • 赤間が関<伊形霊雨>
  • 長風浪を破って一帆還る
  • 碧海遙かに回る赤馬が関
  • 三十六灘行ゆく尽きんと欲す
  • 天辺始めて見る鎮西の山
  • あかまがせき<いがたれいう>
  • ちょうふうなみをやぶって いちはんかえる
  • へきかいはるかにめぐる あかまがせき
  • さんじゅうろくだん ゆくゆくつきんとほっす
  • てんぺんはじめてみる ちんぜいのやま

詩の意味

 遠くから吹き寄せてくる風に送られ、大波を破って一艘の帆船が帰っていく。青海原が遥かにめぐりまわる所は赤間関である。
 瀬戸内海の多くの早瀬難所を乗り切ろうとするところ、天の彼方に、わが故郷である九州の山々が見え始めた。

語句の意味

  • 赤間関
    赤馬関とも馬関ともいう 今の下関あたり
  • 長 風
    遠くから吹いてくる大風
  • ぐるっと巡って同じ所に帰る
  • 三十六灘
    数の多い灘 「灘」は早瀬や難所
  • 鎮 西
    九州の古名 奈良時代に筑紫(福岡)に鎮西府がおかれたことに由来 「鎮」はしずめる

鑑賞

雄大な故郷の懐に迎えられる喜び

 おそらく京都遊学からの帰途で、故郷の熊本に帰ろうとして船で周防灘(すおうなだ)から赤間関に回ったのち、九州の山々を船中で望み、懐かしさのあまりこの詩を作ったのであろう。「鎮西」と古名を使い九州をひとくくりにして表現したところに作者の故郷への懐かしさと抱えきれない喜びが感じられる。また「三十六灘」と「天辺」など、やや誇張気味な語調にも喜びの大きさがうかがえる。一句目の「長風」と「一帆」、二句目の「碧海」と「赤馬」の対語(ついご)の配置もリズムを感じさせ微妙な味わいを示している。

備考

 藪孤山(やぶこざん)が編集した「楽泮集」(らくはんしゅう)という詩集には霊雨の作としてこの詩が見えるが、作者を藪孤山とする説もある。

漢詩の小知識

 平起こり、仄起こりとは
漢詩では一句目の上から二番目の字がその詩のリズムを決定づける重要な字である。その字が平字であれば平起こり、仄字なら仄起こりという。

詩の形

 平起こり七言絶句の形であって、上平声十五刪(さん)韻の還、関、山の字が使われている。

結句 転句 承句 起句

作者

伊形霊雨 1745-1787
江戸中期の儒学者

 肥後(熊本県)国木(くにき)の人。名は質(ただし)、霊雨はその号。幼より詩をよくし、時習館で学んだ。国史や和歌・詩文に長じた。師の藪孤山はその詩を見て「李太白また生まれる」と称賛したという。師はこの俊才を藩侯に推薦し教授にあたらせた。藩命を以って京都に遊学し、帰郷後は子弟に教授した。感ずるところがあって職を辞し、再び仕えなかった。「霊雨山人詩集」5巻がある。天明7年6月6日に没した。享年43。