漢詩紹介

読み方
- 嚴島<浅野坤山>
- 遙かに鼇背を觀れば一蓬莱
- 靉靉たる雲煙瑞臺を擁す
- 月は長廊に落ち灣上静かなり
- 萬燈の星列波を照らして來る
- いつくしま<あさのこんざん>
- はるかに ごうはいをみれば いちほうらい
- あいあいたる うんえん ずいだいをようす
- つきは ちょうろうにおち わんじょうしずかなり
- まんどうの せいれつ なみをてらしてきたる
詩の意味
遠くから海亀の背のような形の島を眺めると、ちょうど仙人の住むという蓬萊山のようであり、たなびいている雲煙は、厳島神社の楼台を覆っているかのようである。
夜になって、月は長い廊下を照らして、湾の上は非常に静かであり、それに加えて、幾万もあろうかと思われる燈籠(とうろう)の明かりがちょうど星が並んでいるように波に映って美しく動いている。
語句の意味
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- 嚴 島
- 広島県宮島町にある島 日本三景の一つ 神社は平家の守護
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- 鼇 背
- 海亀の背 ここでは島の形容
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- 蓬 莱
- 仙人が住むという伝説の島
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- 靉 靉
- 雲のたなびくさま
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- 瑞 臺
- 「瑞」はめでたい 「台」は建物 ここでは厳島神社の楼台
鑑賞
平家の守り神、厳島神社
推古天皇の時代に建立されたと伝えられ、初めは規模も小さかったが多くの信仰を集めていた。平清盛が安芸の守(あきのかみ)になったとき、彼の肝いりで大規模な改修が行われ、現在の社殿の基礎ができた。平家の守り神社となったのはそのためである。守護神は3人の女神(市杵島姫命=いちきしまひめのみこと・田心姫命=たごりひめのみこと・湍津姫命=たぎつひめのみこと)で、その故か仲の良い夫婦や恋人同士の参詣には嫉妬なさるとか。現在の本殿や、宝物殿にある平清盛が書かせたという平家納経は国宝であり、海上の大鳥居と合わせて世界遺産に認定された。
日本三景
京都府宮津の天の橋立、宮城県松島と併せて古来「日本三景」といわれている。
詩の形
平起こり七言絶句の形であって、上平声十灰(かい)韻の萊、台、来の字が使われている。
結句 | 転句 | 承句 | 起句 |
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作者
浅野 坤山 1842-1937
江戸末期最後の広島藩主・政治家・漢詩人
天保13年7月、沢家に生まれ、浅野家の支藩浅野長訓(ながみち)の養嗣子(ようしし)となる。名は長勲(ながこと)、坤山は号。長訓が浅野家宗家を継ぐと坤山はこれを補佐した。学問のほかに剣・槍・弓・馬の文武に秀で、藩を挙げて勤王のために尽くした。維新後は広島県知事、イタリア特命全権公使、華族長官、貴族院議員などを経て昭和12年2月没す。享年96。勲一等旭日大綬章受章。侯爵。