漢詩紹介

吟者:稲田 菖胤
2005年6月掲載

読み方

  • 芳野懐古<河野鉄兜>
  • 山禽叫び斷えて 夜廖廖
  • 限り無き春風 恨み未だ銷せず
  • 露臥す延元 陵下の月
  • 滿身の花影 南朝を夢む
  • よしのかいこ<こうのてっとう>
  • さんきんさけびたえて  よるりょうりょう
  • かぎりなきしゅんぷう うらみいまだしょうせず
  • ろがすえんげん  りょうかのつき
  • まんしんのかえい なんちょうをゆめむ

字解

  • 山 禽
    山鳥 山に住む小鳥
  • 叫 斷
    叫んでの意
  • 廖 廖
    さびしいさま 寂寥と同じ
  • 無限春風恨未銷
    吹きよせる春風には今なお南朝時代の限り無い恨みがある
  • 露 臥
    野宿すること
  • 延元陵
    延元時代の天皇の陵の意で後醍醐天皇の御陵

意解

 時ならぬ山鳥が一声高く鳴いて、夜はさびしくふけわたる。あとからあとから吹いてくる春風はなま暖かく、今なお後醍醐天皇の御恨みが消えずこもっているように思われる。
 懐古の情に堪えかねて、この夜、延元陵のほとりで月に照らされて野宿をし、全身に花影をあびて夢にまで南朝のことを思うのである。

備考

 この詩の構造は平起こり七言絶句の形であって、下平声二蕭(しょう)韻の廖、銷、朝の字が使われている。

結句 転句 承句 起句

作者略伝

河野鉄兜1825-1867

 河野は<かわの>ともいう。江戸後期の医者、漢詩人、俊造(しゅんぞう)と称し鐵兜はその号である。文政8年播州(ばんしゅう)網干(あぼし)に生まれ幼にして学を好み神童と称された。医を業としたが、のち梁川星巖(やながわせいがん)の門に入り、好く詩学に通じ全国各地に遊学し、遂に江戸に於いて家塾を開く。慶応3年四十三才にて没す。著書に「覆醤詩談(ふくしょうしだん)」「鐵兜遺稿」等がある。