漢詩紹介

吟者:松野春秀
2011年1月掲載[吟法改定再録]

読み方

  •  松竹梅  <松口 月城>
  • 寿福愈開く 松竹梅
  • 君が家 今日 是蓬萊
  • 亀は遊び鶴は舞い 人還酔う
  • 無限の歓懐 玉杯に在り
  •  しょうちくばい  <まつぐち げつじょう>
  • じゅふくいよいよひらく しょうちくばい
  • きみがいえ こんにち これほうらい
  • かめはあそびつるはまい ひとまたよオ
  • むげんのかんかい ぎょくはいにあり

詩の意味

 長寿と幸運をもたらす、めでたい松竹梅が飾られ、いよいよ開運の日を迎えた。君の家は今日まさに、神仙の住むという蓬萊山のごとくである。

 鶴は千年亀は万年といわれる長寿の象徴で、その鶴や亀が舞い遊ぶようなめでたい席で、人々も無限の喜びに浸って玉杯を傾けるのである。

語句の意味

  • 松竹梅
    ともに寒に堪えるもので「歳寒の三友」と呼ばれ日本ではめでたいものとして慶事に用いられる
  • 寿 福
    長寿と幸運
  • 蓬 萊
    想像上の仙山の名 東海の東にあって仙人が住んでいたという不老不死の地
  • 玉 杯
    「玉」は美称 宝石で作られた杯 立派な杯

鑑賞

  めでたさも極みなり松竹梅

 この詩は作者が吟界の求めに応じて作詩したもので、結婚・新築・誕生・記念日・叙勲など祝宴の席での吟詠や詩舞に添うように縁起の良い詩語を並べている。松竹梅は「歳寒の三友」と呼ばれ、寒さにも耐えて生き抜くものとして尊ばれている。この3字だけで、あとはなくてもおめでたさは十分なのだが、さらに「蓬萊」「鶴」「亀」「玉杯」と並べて、祝意はいやましに上がる。

 「蓬萊」は想像上の島で、三神山の一つに数えられ、長寿の島である。「鶴」は通常丹頂鶴を指す。その姿の美しさから鶴の代表である。「亀」は中国では麟・鵬・亀・龍を四霊とし、その一つとして尊重され、しばしば卜占に用いられている。日本でも「鶴は千年亀は万年」という言葉で長寿の象徴として尊ばれている。「玉杯」は潔白で善美を表す美称がついて見事な杯を指す。「玉音」「玉肌」「玉笛」「玉文」などの用例がある。そして「君が家」とあるから、祝宴に招かれた時を想像すればよい。

 床の間に鶴亀の掛け軸が飾られ、祝辞にも松竹梅の語が発せられ、余興でも鶴亀にまつわる歌や踊りが披露されたような席を想像してみよう。めでたさがあふれる詩である。

参考

  祝意の詩

 祝意を表す詩として本会が採用しているものに、藤野君山の「宝船」、武田信玄の「新正口号」、松口月城の「結婚を賀す」など、律詩では河野天籟の「祝賀の詞」などがある。

詩の形

 仄起こり七言絶句の形であって、上平声十灰(かい)韻の梅、萊、杯の字が使われている。

結句 転句 承句 起句

作者

松口月城  1887~1981

  明治から昭和の医者・吟詠家・作詩家・書家

 明治20年福岡市有田に生まれる。名は栄太。14歳で松口家の養子となる。18歳で熊本医学専門学校を卒業し、医師の資格を得、世人を驚かせた秀才である。医業のかたわら漢詩を宮崎来城に学び、書・画の道にも優れ、多くの作品は今もなお郷里の「松口月城記念館」に展示されている。全国規模の詩吟連盟の役員を長く歴任され、昭和49年に吟詠普及振興に尽くした功績により文部大臣表彰を受けた。本会の顧問も長く務められた。昭和56年7月没す。享年95。