漢詩紹介

読み方

  •  結婚式  <安達 漢城>
  • 偕老盟成りて 祝觴を捧ぐ
  • 一門の琴瑟 百花芳ばし
  • 祖先照鑑して 神在すが如く
  • 倶に禱る隆隆 家運の昌なるを
  •  けっこんしき  <あだち かんじょう>
  • かいろうめいなりて しゅくしょうをささぐ
  • いちもんのきんしつ ひゃっかかんばし
  • そせんしょうかんして かみいますがごとく
  • ともにいのるりゅうりゅう かうんのさかんなるを

詩の意味

 夫婦の契りも固く、ここに祝杯を差し上げ、まことにめでたいことである。一家一門琴瑟相和し、さながら咲き誇る百花の如く芳しい。

 さぞかし先祖の霊も神々とともに照らしみられて、お喜びのことであろう。私共も貴家一門の家運のご隆昌をお祈り申し上げたいものである。

語句の意味

  • 偕 老
    偕老同穴の略 「偕」はともに 夫婦仲睦まじく共に老いるまで連れ添う
  • 祝 觴
    祝いの杯
  • 琴 瑟
    琴と大琴 琴瑟相和の略 夫婦の仲が睦まじく調和する
  • 照 鑑
    照覧に同じ 神仏などが明らかにご覧になる

鑑賞

  いつの時代でも夫婦仲と両家の繁栄を祈る歌

 言うまでもなく若い二人の門出を祝った歌である。ともに睦まじく新家庭を築いてほしい。さらにはこの結婚を先祖や神がご覧であるから、一門の隆盛も祈らずにはいられないという、すべての祝意を4句の中に言い尽くしている。どんな時代にも夫婦と両家の繁栄を祈ることに変わりはないので、結婚式に招かれたら、おおいにこの詩を吟じてほしい。

 ところで本会には松口月城の「賀結婚」の詩が採用されているから合わせて鑑賞していきたい。

備考

  夫婦円満を称える四字熟語

 偕老同穴=夫婦仲睦まじく共に老いるまで連れ添うこと。生きては共に老い、死しては同じ穴に葬られるのが原義。「詩経」に「子の手を執(と)りて、子と偕(とも)に老いん」とあり、出征兵士が妻に呼び掛ける歌である。さらに別章に「穀(い)きては(生きては)則ち室(しつ)を異にするも、死すれば則ち穴を同じうせん」に基づく。「白頭偕老」ともいう。

 琴瑟相和=夫婦の仲が睦まじく調和がとれていること。「琴」は5弦から13弦、「瑟」は25弦以上で琴の大型。いずれも弦楽器で、この琴と瑟が同時に弾奏されて音調が調和されている状態をいうのが原義。「詩経」小雅篇(しょうがへん)にある「妻子好合(こうごう)し、琴瑟を鼓するがごとし」に基づく。今では①夫婦の円満②朋友の兄弟的情諠(じょうぎ)の融和③物事が心に和らぐ、などを例えていうのに用いられる。

参考

  「さかずき」のいろいろ (漢和辞典より)

 「杯」(はい)=酒を入れる器 最も一般的

 「觴」(しょう)=彫刻を施した文様のある上等な酒器

 「卮」(し)=2リットル以上も入る大きな酒器

 「盞」(さん)=小さな杯

 本会採用の漢詩に出てくる「さかずき」は杯、觴、卮の3種であるが、厳密な違いは守られていない。なお「盃」は「杯」の俗字である。

詩の形

 仄起こり七言絶句の形であって、下平声七陽(よう)韻の觴、芳、昌の字が使われている。

結句 転句 承句 起句

作者

安達漢城 1864~1948

  明治から昭和時代の政治家・漢詩家

 熊本に生まれる。名は謙蔵、漢城と号す。明治35年に衆議院議員となり大正元年立憲同志会に入会。加藤高明内閣で逓信(ていしん)大臣、若槻礼次郎内閣で内務大臣を歴任。若くして吟詠を好み、昭和8年横浜に八聖殿、のち熊本に三賢堂を建て、国民精神の涵養(かんよう)に意を尽くした。なお本会顧問としてしばしば大会に出席された。昭和23年8月没す。享年85。従三位を贈られる。