漢詩紹介

読み方

  • 南都之月<田中哲菖>
  • 春日の祠邊 月色妍なり
  • 雲晴れて今夜 玉盤圓し
  • 晁卿曾て 異郷に在りて望む
  • 皎潔依然たり 三笠の巓
  • なんとのつき<たなかてっしょう>
  • かすがのしへん げっしょくけんなり
  • くもはれてこんや ぎょくばんまろし
  • ちょうけいかつて いきょうにありてのぞむく
  • こうけついぜんたり みかさのいただき

字解

  • 南 都
    平城京すなわち奈良の称 平安京すなわち京都を北都というのに対する
  • 春 日
    奈良市東方の地で三笠・若草等を含む一帯の山野
  • 祠 邊
    神を祭る社 春日神社のあたり
  • 月色妍
    月光が美しい
  • 玉 盤
    玉(ぎょく=軟石・硬石があり)をみがいて作られ 円く浅い物を盛る器(うつわ) ここでは円い月のこと
  • 晁 卿
    阿倍仲麻呂(あべのなかまろ)のこと 中国名を晁卿(ちょうけい)または朝衡(ちょうこう)という 「卿」は 高官であり天子が臣下を呼ぶときに用いたのにはじまる呼称
  • 皎 潔
    白く清らかなさま
  • 三 笠
    春日大社後方の三笠山

意解

 春日大社のあたりは月の光が美しい。今夜は雲も無く晴れわたり、月は玉盤を思わせるように円く輝いている。阿倍仲麻呂が その昔、唐の地で月を見て「天の原ふりさけ見れば春日なる三笠の山に出でし月かも」と詠んだように、今夜も白く清らかな月が昔のままに三笠の 山の上で皎皎と輝いている。

備考

 この詩の構造は仄起こり七言絶句の形であって、下平声一先(せん)韻の妍、圓、巓の字が使われている。

結句 転句 承句 起句

作者略伝

田中哲菖 1895-1979

 本名末治郎(すえじろう)、哲菖は号。明治28年11月、石川県七尾に生まれる。七尾商業卒。鉄道省より酒造会社に入り 、昭和30年取締役をもって退社。悠悠詩作に耽り、また、吟を八木哲洲に師事して多数の門下を養成、常に漢詩の興隆をはかり作詩指導に挺身する。本会副会長として活躍。昭和54年3月21日、哲菖会の昇段試験巡回中倒れ83歳にて没す。