漢詩紹介

読み方
- 雨後春郊<藤澤黄坡>
- 柳眼伸ぶる時 傴骨伸ぶ
- 辭せず韻事の 吟身を役するを
- 郊村好し是 佳友を伴い
- 林樾喜ぶ他の 美人に逢うを
- 野色全く 零雨に由って洗い
- 藻情自ずから 載陽と與に新たなり
- 逍遥す千里 山中の路
- 別様の心懐 別様の春
- うごのしゅんこう<ふじさわこうは>
- りゅうがんのぶるとき うこつのぶ
- じせずいんじの ぎんしんをえきするを
- こうそんよしこれ かゆうをともない
- りんえつよろこぶたの びじんにあうを
- やしょくまったく れいうによってあらい
- そうじょうおのずから さいようとともにあらたなり
- しょうようすせんり さんちゅうのみち
- べつようのしんかい べつようのはる
字解
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- 傴骨
- 曲がった骨
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- 韻事
- 詩を作ったりする風流な遊び
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- 役
- 働かせる
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- 林樾
- 林の下()は樹陰
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- 零雨
- 降った雨 「零」は(雨が)降る
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- 載陽
- 初めての陽気
意解
いよいよ春の暖かさも増して柳の芽が出る頃には、老人の曲がった腰の骨も、伸び伸びするような気分がして(まことによい時節である)。(だから人から風流な遊びをしようと誘われたら)私は決して断ることなく、早速そこへ行って詩心を働かせる。
今日はその機会を得て郊外の村を訪ねてきてみるとまことにすばらしく、鶯が鳴いてよい友達となってくれるし、林の下に来ると、梅の花が咲いているのに出逢って、殊のほかうれしく感じた。
野辺の色はといえば、昨日の雨ですっかり洗われて実に美しく、詩情も自然に、初めての陽気とともに次々と湧きあがる。
今、千里山の山路をぶらぶらさまよっていると、全く俗塵を離れた別世界にいる心持がして、殊のほか清々しく、春もまた特別変わったよい春に出会ったような気がする。
備考
この詩の構造は仄起こり七言律詩の形であって、上平声十一眞(しん)韻の伸、身、人、新、春の字が使われている。
尾聯 | 頸聯 | 頷聯 | 首聯 |
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作者略伝
籐澤黄坡 1876-1948
藤澤南岳の第二子として生まれ、先祖は讃岐の人で家代々漢学の名門。名は章(あきら)。通称章次郎といい、字は士明(しめい)、黄坡は号。父何岳の後を継いで門下を指導された。また関西唯一の漢字塾「泊園書院」院長で、詩書をよくされ「逍遥吟社」の社友を指導される。関西大学名誉教授。昭和九年関西吟詩同好会(現、社団法人関西吟詩文化協会)の初代会長として吟詩の普及に尽くされた。昭和23年12月没す。年74。
参考
七言律詩は、第一・二句を首(起)聨、第三・四句を頷(前)聨、第五・六句を頸(後)聯、第七・八句を尾(結)聯と呼び、頷聯、頸聨はそれぞれ対句構成にしなければならない。
また、第一句と偶数句末は押韻すること、及び、二四不同、二六同、一・三・五不論の規則は絶句の場合とおなじである。
対句とは二つの句が相対して字数、品詞、色、数字等を同じように配置することである。