漢詩紹介

吟者:鈴木永山・松野春秀
2009年12月掲載

読み方

  • 逸題<西郷南洲>
  • 虎を養わず 豺を養わず
  • 亦是九州 西の一涯
  • 七百年來 舊知の處
  • 百二の都城は 皆我が儕
  • 海南を壓倒す 三尺の劍
  • 天下を蹂躙す 七寸の鞋
  • 人若し吾が居處を 識らんと欲せば
  • 長く住す麑城 千石の街
  • いつだい<さいごうなんしゅう>
  • とらをやしなわず さいをやしなわず
  • またこれきゅうしゅう にしのいちがい
  • しちひゃくねんらい きゅうちのところ
  • ひゃくにのとじょうは みなわがともがら
  • かいなんをあっとうす さんじゃくのつるぎ
  • てんかをじゅうりんす しちすんのわらじ
  • ひともしわがきょしょを しらんとほっせば
  • ながくじゅうすげいじょう せんごくのまち

字解

  • 虎・豺
    強大な力はあるが無慈悲で猛悪な人物のたとえ
  • 置き字(読まない)
  • 九州西一涯
    九州西端の土地 島津領
  • 七百年來
    島津家が興ってから今に至るまでの間
  • 百二都城
    地勢が険しくて他国に百倍する力がある、きわめて要塞堅固な町。本来は秦の国を指す。  ここでは島津領。 「城」は町。
  • 海南
    ここでは九州地方
  • 三尺劍
    日本刀 武器一般
  • 蹂躙
    ふみにじる 屈服させる
  • 七寸鞋
    ここでは足で走り回ること
  • 麑城
    鹿児島城 「麑」は小鹿
  • 千石街
    鹿児島市中の町名

意解

 虎や山犬のようなただ強くて無慈悲な武人を養い育てるのではなく、(むしろ文武両面に優れた人材を養成していた)これこそが九州の西の端にあるわが島津藩のことである。
 島津家は祖先忠久公より今に至るまで、七百年続いた名家であるということは古くからみんな知っていることで、また秦の国を手本とした、他国に百倍もする力を誇るきわめて要塞堅固な領内に住む者は皆な仲睦まじいのである。
 かつてわが藩は三尺の日本刀を振るい、九州を制圧したこともあり、それのみならず藩士が草鞋(わらじ)履きで走り回り、日本全土を向こうに回して屈服させたりしたほど誇り高い藩である。
 人がもし私の居住地を知ろうと思うなら、(胸を張って答えたい)自分は先祖代々、この輝かしい鹿児島市中の千石街に長く住む者でであると。

備考

 この詩の構造は仄起こり七言古詩の形であって、上平声九佳(か)韻の豺、涯、儕、鞋、街の字が使われている。古詩であるため平仄は問わないが、参考までに平仄を表示する。

尾聯 頸聯 頷聯 首聯

作者略伝

西郷南洲 1827-1877

 薩摩藩士、吉之助(きちのすけ)といい、文政十年鹿児城下、下加治屋町に生まれる。隆盛(たかもり)と称し、南洲は号である。藤田東湖(ふじたとうこ)に師事する。安政元年(1854)鹿児島藩主島津斉彬(しまづなりあきら)の側近に抜擢(ばってき)された。征韓の議、容れられず退官。帰郷する。明治十年私学校党に擁せられて挙兵したが(西南戦争)敗れて城山で自決した。歳51。

参考

 西郷南洲の詩にみる名句
《児孫の為に美田を買わず》(偶感)
《利を計らば應に天下の利を計るべし》(書懐)
《人生の浮沈は晦明に似たり》(謫居作)
《天心を認得すれば志意振う》(七言絶句)
《雪に耐えて梅花麗し》(五言律詩)
《仰いで天に愧じず況や又人にをや》(七言絶句)