漢詩紹介

読み方

  • 祝賀の詞<河野天籟>
  • 四海波平らかにして 瑞煙漲り
  • 五風十雨 桑田を潤す
  • 福は東海の如く 杳かに限り無く
  • 壽は南山に似て 長えに騫けず
  • 鶴は宿る老松 千載の色
  • 龜は濳む江漢 萬尋の淵
  • 芙蓉の雪 大瀛の水
  • 神州に磅礴して 九天に輝く
  • しゅくがのし<こうのてんらい>
  • しかいなみたいらかにして ずいえんみなぎり
  • ごふうじゅうう そうでんをうるおす
  • ふくはとうかいのごとく はるかにかぎりなく
  • じゅはなんざんににて とこしえにかけず
  • つるはやどるろうしょう せんざいのいろ
  • かめはひそむこうかん ばんじんのふち
  • ふようのゆき たいえいのみず
  • しんしゅうにほうはくして きゅうてんにかがやく

字解

  • 四 海
    世の中
  • 瑞 煙
    めでたいもや 「瑞」はめでたい
  • 五風十雨
    五日に一日なごやかな風が吹き十日に一日めぐみの雨が降る 天候の順調なこと
  • 南 山
    「詩経」九如の篇に「南山の寿の如く騫けず崩れず」とあり長寿の意
  • 江 漢
    長江と漢江 大河の意
  • 萬 尋
    無限に深いさま
  • 芙 蓉
    富士山
  • 大 瀛
    大海原
  • 磅 礴
    気が充満する

意解

 世の中は平和に静かに治まって、おめでたいもやが満ちわたっていて、五風十雨の順調な気候は田畑を潤している。
 幸福は東海のように広くどこまでも果てしなく、寿命は南山に似ていつまでも騫けることがない。
 鶴は老松に宿り千年の色を示し、亀は長江や漢江の万尋の深い淵に住むとか言われるが、ともに長寿でめでたい生き物である。
 富士山の雪に大海原の水、この気高き姿や広い気分が日本中に充満して天までも輝きわたるのである。

備考

 この詩の構造は仄起こり七言律詩の形であって、下平声一先(せん)韻の煙、田、騫、淵、天の字が使われている。

尾聯 頸聯 頷聯 首聯

作者略伝

河野天籟 1861-1941

 熊本県玉名(たまな)郡長洲町(ながすまち)の人。名を通雄(みちお)といい、天籟は号。熊本師範学校を卒業後小学校長を歴任し作詩に志すこと40年、詩賦自由自在にして漢詩百余篇を蒐録(しゅうろく)した「孟浪餘滴」(もうろうよてき)の冊子を著す。昭和16年5月没す。年80。