漢詩紹介

読み方

  • 十念寺<宮崎東明>
  • 四條の田野 轉荒涼
  • 此の地人は稱す 古戰場と
  • 十念寺邊 池既に渇れ
  • 飯盛山上 樹空しく蒼し
  • 短兵將に斬る 犬羊の賊
  • 少壯共に盟す 金石の腸
  • 六百年來 忠烈の蹟
  • 精華秀で發して 今に至るまで香し
  • じゅうねんじ<みやざきとうめい>
  • しじょうのでんや うたたこうりょう
  • このちひとはしょうす こせんじょうと
  • じゅうねんじへん いけすでにかれ
  • いいもりさんじょう きむなしくあおし
  • たんぺいまさにきる けんようのぞく
  • しょうそうともにめいす きんせきのはらわた
  • ろっぴゃくねんらい ちゅうれつのあと
  • せいかひいではっして いまにいたるまでかんばし

字解

  • 十念寺
    現大東市北条にあり 作者の生家の近くにある寺院 小楠公並びに一族の菩提所
  • 四 條
    大阪府四条畷市 1348年楠木正行(まさつら)が戦死した地
  • 飯盛山
    生駒山の北西部にある山
  • 短 兵
    短い武器(刀や剣)
  • 犬羊賊
    獣に等しい足利の大軍
  • 少 壯
    若く元気な
  • 金石腸
    堅い心
  • 精 華
    優れて立派な
  • 秀 發
    見事である

意解

 四条畷の田野はますます荒れ果てているが、この付近は楠木正行が足利尊氏軍の高師直(こうのもろなお)と戦った古戦場と言い伝えられている。
 十念寺近くにある龍王池は今や水も枯れ果て、飯盛山の頂上には樹々が空しく青々と繁っている。
 短い武器で獣のような足利の大軍に切り込み、歳若く意気盛んな正行は、わずかな同志を率いて、ともに忠誠を尽くすという堅い心を誓い合って戦ったが、この池のほとりに散華(さんげ)したのである。
あれから600年。見事な精忠の大精神は今もなお燦(さん)として輝いている。

備考

 この詩の構造は平起こり七言律詩の形であって、下平声七陽(よう)韻の涼、場、蒼、腸、香の字が使われている。

尾聯 頸聯 頷聯 首聯

作者略伝

宮崎東明 1889-1969

 名は喜太郎、東明は号。明治22年3月河内国四條村野崎(現在の大東市)に生まれる。京都府立医学専門学校を卒業、大阪玉川町に医院を開く。医業のかたわら詩を藤澤黄坡(ふじさわこうは)、書を臼田岳洲(うすだがくしゅう)、画を中国人方洺(ほうめい)、篆刻(てんこく)を高畑翠石(たかはたすいせき)、吟詩を眞子西洲(まなごさいしゅう)の各先生に学び、その居を五楽庵と称した。昭和9年関西吟詩同好会(現、公益社団法人関西吟詩文化協会)を創設し、昭和23年、藤澤黄坡初代会長没後二代目会長に就任。昭和44年9月18日没す。年82。